昨季5月30日のヤクルト戦(神宮)で、7回無失点の投球を見せプロ初勝利を飾った山口翔。150キロを超える直球を強気に投げ込むマウンドでの姿に、多くのカープファンが大きな期待を抱いた。

高い潜在能力は折り紙付き。自身の持ち味である力強い球を取り戻し、再び一軍マウンドを目指す。

 プロ3年目となる今季は成長株の若鯉として注目を集めていたが、キャンプでは不甲斐ない投球が続き、2月途中で二軍降格。開幕ローテーションの座をもぎ取った遠藤とは対照的に、出だしからつまづいた形となってしまった。

「もう一度強い球、特に強い直球を投げていこうと、今はそれを念頭に置いて練習をしています。制球は一旦置いといて、もっと大胆に体を使ったり、自分にあった投球フォームを考えています」

 これまでのセットポジションから、3月末以降ワインドアップに投球フォームを変更。再び山口自身の原点である“直球の威力〟を取り戻すため、日々調整を続けている。

「やっぱり自分の魅力は強い真っすぐを投げられることだと思うんです。そこは忘れちゃいけないと思いますし、今年の春はスピード自体が全然出ていませんでした。空振り、ファールを取れるような直球をもっと投げていきたいと思います」

 キャンプの時点では、自身の長所を見失っていた右腕だが、ファームでの調整を続ける中で徐々に復調。確率は低いながらも、少しずつではあるが、自身でも手応えを感じる球を投げられるようになってきた。

「しっかりと自分の指にかかった球を投げられたときは打者を差し込めるだけの投球ができていると思います。手応えはあるので、もっともっとそういう球を投げられる確率を高めていきたいです」

 8月2日の巨人戦(東京ドーム)でプロ初完投をマークするなど、先発ローテーションの一角として存在感を示す遠藤とは同期入団。入団時から切磋琢磨してきた右腕の活躍を喜ぶ一方で、当然そこには焦り、悔しさが入り混じる複雑な感情を抱いている。

「やっぱり悔しいのが一番ですね。(遠藤)淳志があれだけ頑張っているから、負けられないという気持ちも日に日に大きくなっています。ああいう姿を見せられると自分はもっと頑張らないといけないという思いを持つようになりますね」

 現在地だけで言えば大きく差をつけられているが、まだまだここからの巻き返しは十分に可能だ。一軍では徐々に先発陣容が固まりつつあるが、伸び盛りの若鯉右腕は、あくまでも“先発”へのマウンドにこだわりを見せる。

「二軍の試合で先発をやらせてもらっているので、とにかくそこで良い結果を残したいと思っています。強い直球を投げられる確率を上げられるように、技術を上げていって今季中に一軍の先発マウンドに上がりたいですし、一軍で投げて勝ちたいですね。『俺もいるんだぞ』ということをしっかりアピールしたいです。佐々岡(真司)監督は二軍投手コーチ時代にもお世話になった方です。キャンプでは全くアピールできませんでしたが、成長した姿を見せたいですね」

 今季はコロナ禍により、プロ野球史上前代未聞の開幕延期などファンにとっても、そして選手にとっても前例のない特別なシーズンを過ごす。選手自身先の見えない期間を過ごすことでストレスがかかる生活を送っていたことは想像に難くない。だが山口はこの期間に自己と向き合うことで、高いモチベーションを維持していきた。

「最初は焦りもありましたけど、開幕が遅れたことで自分の投球を見直す時間も取れましたし、気持ちの部分でも切り替えることができました。今は『もう一度自分のペースで調整していこう』と腰を据えてやっていく覚悟ができました。ある意味、自分を見つめ直す時期になりましたね」

 キャンプでは実力を発揮できず空回りした背番号47だが、目線は一軍を見据えて黙々と練習に取り組んでいる。右腕が描く逆襲へのシナリオは着々と進んでいる。