栃木県栃木市にある、栃木駅から徒歩5分。白を基調とした研究施設とドーム型の建造物が姿を現す。ここが、エイジェックスポーツ科学総合センターだ。現在、本施設では株式会社エイジェックスポーツマネジメントと東京大学による共同研究が進行している。野球における身体機能の解明から脳科学まで、その研究領域は幅広い。

エイジェックスポーツ科学総合センター

 エイジェックスポーツ科学総合センターの最大の強みは、身体機能や体力を精密に数値化する『アローズラボ』と、野球のパフォーマンスを多角的に解析する『ベースボールラボ』が併設されている点にある。この『フィジカル』と『スキル』を同一拠点でシームレスに測定できる環境こそが、共同研究の精度を飛躍的に高めている。

 例えば、投球・打球速度と体力要素の相関研究。単に『筋力を上げる』といった曖昧な指導ではない。“球速140キロの投手”が150キロの壁を突破するために、どの部位の筋量が、あとどれくらい必要なのかを部位別に推定する。 これにより、選手は目標に対して最短距離で突き進むための、効率的なトレーニング計画を手にすることができる。『経験則に基づく画一的な練習』から、『データに裏打ちされた個別最適化された進化』へ。従来の練習から全く違う次元のトレーニング指導が行われようとしている。

 また、ハイスピードカメラやセンサーを用いた投球・打撃の動作解析においても、単なるフォームチェックに留まらない研究が行われている。『どのような力を加えた結果、何が起き、パフォーマンスにどう影響したのか』を力学的な観点から解明するアプローチだ。物理的な因果関係が明確になれば、感覚に頼らない『再現性の高い動作』の習得が可能となり、動作解析の精度は次なるステージへと引き上げられる。

 パフォーマンス向上への挑戦と並行し、アスリートを苦しめる阻害要因の解明も進んでいる。その筆頭が、野球界で長年解決策が待たれてきた『イップス』だ。精神論で語られがちだったこの症状に対し、研究では運動を司る脳の働きに着目している。これまで具体的なメソッドが確立されていないこの領域に対し、脳科学の視点からアプローチすることで、科学的な改善策の構築を目指している。これは、苦しむ選手たちにとって一筋の希望となるはずだ。

 これらの研究成果は、一部の天才的な選手をさらなる高みへ導くだけではない。「誰もが科学的に正しいプロセスを踏めば、高いレベルへ到達できる」という、ハイパフォーマンスの民主化をもたらす可能性を秘めている。 エイジェックスポーツ科学総合センターと東京大学のタッグは、野球界の常識を塗り替え、まだ見ぬ『スポーツの未来』を今、この瞬間も形づくり続けている。