◆金本の獲得を即決できた真の理由とは? 

 しかし、いくらスイングが鋭いとはいえ、野球には守備や走塁に至るまでさまざまな要素がある。なぜ、苑田はティー打撃だけで金本の獲得を『即決』できたのだろうか?

 「三拍子揃う。平均的な選手。総合力が高い。そんな選手は要らないと思っています。スカウト会議でも、そんな選手は外せと言っています」

 むしろ、無限の可能性を秘めたワンポイントに苑田は惚れるのである。そのワンポイントを見つけることが、スカウトの仕事なのかもしれない。

 金本は2000年に3割・30本・30盗塁のトリプルスリーを達成した名選手である。苑田が『打撃』というワンポイントの向こうに、走攻守の三拍子での大成も見越していたことも見逃がせない。

 「守備に関しては周囲の評価は高くありませんでした。しかし、あれだけのティー打撃をする姿勢を見て、(打撃以外も)一生懸命やるはずだと思いました。守備や走塁も悪いはずがないと確信していました。あの金本の厳しい雰囲気や半端じゃない練習態度を見れば、きっとやれるはずだと思います」

 金本の故障が癒えた頃、苑田は東北福祉大のグラウンドに足を運んだ。評価の高さは不変である。  「自分のなかでは決まっていましたから」

 その言葉通り、リーグ戦を視察しても、彼への評価は揺らぐことがなかった。  通算2539安打、476本塁打、ベストナイン7回、さらに燦然と輝く1492連続試合フルイニング出場の金字塔を打ち立てている。球史に名を残すプレーヤーに上り詰めたのは、苑田の見初めた打撃技術だけによるものではあるまい。妥協なき練習ぶりは、多くのプロ野球ファンが知るところではある。苑田も、彼の野球への向上心を実感した出来事がある。