◆思い出深い黒田博樹氏との投げ合い

 阪神時代のことでよく尋ねられるのが、2005年の日本シリーズ第2戦で記録した“3暴投”です。ロッテのベニー・アグバヤニに対して、1打席3暴投を記録してしまったのです。

 これは、褒められたことでもなければ、自慢にもなりませんが、実は僕自身あまり気にしていません。少し調子に乗っていたのかもしれませんが、僕はフォークが武器の投手ということもあり、多少球が後ろに逸れることがあっても、そこまで気にしてはいませんでした。

 そして翌2006年、先発投手に転向することになったのですが、3試合目の先発となった4月16日のカープ戦は、すごい投手と投げ合わせてもらうことになりました。そう、専修大の先輩であり、カープの大エースである黒田博樹さんです。

 8回まで無失点に抑えることはできましたが、僕自身『ヘロヘロ』でした。正直“なんとか8回を抑えた”という感覚だったことを覚えています。試合は1対0で阪神がリードしていましたが、9回に無死二、三塁のピンチをつくってしまい、結局犠牲フライ2本を打たれ逆転負けを喫してしまいました。

 投げ切る力がないと言うか、心と体の両面でのスタミナ不足を痛感しました。もちろん勝利できれば良かったのですが、黒田さんと投げ合うことができたのは今振り返っても最高の経験でした。多くの好投手と投げ合ってきましたが、やはり大学の先輩でもある黒田さんは自分の中で特別な存在です。

 後日、きちんとご挨拶をさせていただいた際には『いい後輩やなぁ』と笑顔で声を掛けていただきました。まさか、黒田さんとその後カープで一緒にプレーするなんてことは、当時想像すらできませんでしたね。

 次回は、リリーフでフル回転した阪神での残りの4年間や、西武へのトレードの話をしたいと思います。(Vol.3に続く)。

【江草仁貴/えぐさひろたか】
1980年9月3日生、広島県福山市出身。2002年ドラフト自由枠で阪神に入団。2005年に頭角を現し、中継ぎとして51試合に登板。リーグ優勝に貢献する。2011年シーズン途中に西武に、2012年開幕前に地元・カープに移籍(共にトレード)。カープでは6年間を過ごし2017年限りで現役引退。その後大阪電大の野球部コーチを務めるなど、精力的に活動している。通算成績は349試合 442.1回 22勝17敗48ホールド 防御率3.15。