最終盤を迎えたJ1リーグの中で、サンフレッチェ広島が着実に勝ち点を積み上げている。現在の好調の要因は、どこにあるのだろうか。サンフレッチェOBの吉田安孝氏が、再浮上を図るサンフレッチェの現状を分析する。

リーグ戦初ゴールを決めた東俊希選手。東京五輪世代の期待のMFだ。

 10月下旬からサンフレッチェが順調に白星を積み重ねています。9月13日の川崎戦でまさかの大敗(●1-5)を喫してしまいましたが、10月3日の鳥栖戦(○3-0)から再びサンフレッチェらしい試合運びができているように思います。

 敗れはしましたが、10月14日の川崎戦(●0-2)は内容的には素晴らしいものがありました。大敗した試合ではまったく自分を出せず終いでしたが、2戦目は攻守にわたり積極的な姿勢を常に貫いていました。表面上は同じ負けですが、次につながる価値のある試合でしたよね。

 実際、その後の横浜FM戦(○3-1)は今季のベストゲームと言えるくらいの内容でしたし、随所で前年度王者を圧倒していました。ボール支配率は34%ですが、支配率と結果が一致しないことはサッカーではよく起こりうることです。

 逆に直近の仙台戦(△0-0)、浦和戦(△1-1)は、それぞれ60%、59%と支配率で上回っておきながら勝ちきることができませんでした。このあたりがサッカーというスポーツの難しいところですよね。

 いずれにせよ横浜FM戦はチーム全体で見ても素晴らしかったですし、永井に移籍後初ゴールが記録されたのも非常に大きいです。これまでも前線から何度もスプリントを繰り返し、サンフレッチェが目指すサッカーをピッチ上に蘇らせるくらいのプレーを見せていました。

 ただ本人もコメントしていたように、FWの選手として守備を褒められても全くうれしくなかったと思います。その意味では例えPKでも得点が記録されるのは本人にとってもチームにとっても大きなことです。元々、実力がある選手ですし、この得点を機に一気に開花してほしい選手の一人ですよね。

 あと、このPKのシーンで特筆したいのがキャプテンの佐々木についてです。本来であれば、「あの場面では誰が蹴る」というチーム内の約束事があったはずなんです。それでも城福監督は、あえてキッカーに永井を指名しました。

 本来蹴るはずだった選手は当然面白くない部分もあったと思いますが、そのときにサッと佐々木がその選手の元に駆け寄って声かけをしていたんですよね。キャプテンとして、しっかりチーム全体のことも見ているのがよく分かるシーンでした。

 初という意味では、前述の鳥栖戦で東もリーグ戦初ゴールを記録しました。9月下旬から大半の試合でスタメン出場を続けていますが、左足という絶対的な武器を持っている選手なので森島のようにフリーキックでも点を取ってもらいたいですね。

 右の森島、左の東と左右両方の選手が立つだけで、相手はどちらの回転でボールが来るのか迷うものなんです。左利きのフリーキッカーがもう一人いると大きな武器になるので、そのためにも多くピッチ上に立てるよう今後も結果を出し続けてほしいですね。

 シーズンも残りわずかとなりましたが、結果次第ではまだ上を狙える位置に立っています。一つでも上の順位でフィニッシュできるように、選手たちは気を抜くことなく最後まで戦ってほしいですね。

 残りの試合でサンフレッチェらしさを貫けば、それは同時に来季に向けての財産にもなります。来季もまた J1で戦うわけですから、苦手意識を相手に植え付けることはすごく重要になってきます。「サンフレッチェとの対戦は嫌だな」と思わせるだけで、来季に向けてのアドバンテージになりますからね。

 サンフレッチェを除いて現状、17チームの中でどれだけのチームにそう思わせているか。これは非常に大きなポイントです。順位の確定がイコール、消化試合ではありません。最終戦が行われる12月19日の名古屋戦まで、選手たちは戦う姿勢を貫き通してほしいですね。