5月14日、エイジェック本社で「イップス」をテーマとした最先端のセミナーが開催された。かつては「精神的な弱さ」や「スランプ」のひと言で片付けられがちだったこの運動障害に対して、いま、高い関心が寄せられている。

登壇者の集合写真

 セミナーでは、最新のスポーツ科学や医学的アプローチに基づいたアカデミックな検証が行われた。興味深いのは、この問題が野球などのスポーツ界に留まらず、音楽界で演奏家を苦しめる「フォーカルジストニア」とも地続きであるという点だ。

 なぜ、努力を重ねたアスリートや音楽家の身体が、ある日突然、思い通りに動かなくなってしまうのか。当日のセミナーの模様から、イップスという「脳と身体のミステリー」の正体に迫る。

「イップスはすべて、脳の問題として捉えています」

 そう語るのは、東京大学の中澤教授だ。神経科学の視点から見ると、イップスは単なる「メンタルの壁」ではなく、「自動化されていた運動プログラムの誤作動」として定義できるという。

 人間の運動には、歩行のように自然と身につく「基本的運動」と、野球の投球や楽器の演奏のように練習を重ねて獲得する「運動スキル」の2種類がある。後者の運動スキルが上達するということは、脳の中に専用のプログラムが形成され、意識しなくても体が動くようになる「運動の自動化」を意味する。

 しかし、過度な緊張や「ちゃんと思い通りに動かそう」という強い認知的な意識が働くと、この洗練されたプログラムにノイズが混ざってしまう。これが繰り返されるうち、脳の「可塑性」によって、その間違ったエラー動作自体が脳に上書き保存されてしまうのだ。これが、根性論や練習量だけではイップスが克服できない大きな理由である。