現役時代には新人王をはじめ、盗塁王、ゴールデン・グラブ賞に輝くなど、カープの主力選手として活躍した梵英心氏。

 カープ退団後は社会人野球エイジェックで選手兼任コーチとしてプレーし、2019年に選手を引退。2020年はJFE西日本硬式野球部のコーチを務め、2021年からはオリックス・バファローズの一軍打撃コーチに就任することが決まった。

 本連載では梵氏の著書「梵脳 失敗したらやり直せばいい。」を元に、梵氏が歩んできた野球人生に迫っていく。4回目の今回は、カープに入団し、新人王を受賞したプロ1年目の活躍にスポットを当てた。

2006年のルーキーイヤー、123試合に出場し130安打、8本塁打、13盗塁。球団の新人最多安打記録(112本)も更新。見事、新人王に輝いた。

◆勝負に出たルーキーイヤー。球団の新人最多安打記録を更新し「新人王」を受賞

 社会人野球3年目、そして25歳だったこともあり、プロ入りに関しては梵は自身の置かれた状況を冷静に捉えていた。

 そんなプロ入りに対する心境に変化が生じたのは、2005年の夏も過ぎたあたりの頃だ。

「カープから獲得の意向があるという話が入ってきたんです。地元球団であれば家族や友人にプレーを見せる機会も増え、世話になった人たちへの恩返しにもなります。素直にうれしかったですね」

 それまで冷静だったとはいえ、この話を聞いてからは急速にプロを意識するようになった。そして迎えた2005年11月18日。梵はカープから大学生・社会人ドラフト3巡目で指名を受けた。

 梵の中に迷いなど一切なかった。指名後はすぐに幼馴染の永川勝浩(現カープ一軍投手コーチ)から「おめでとう」という言葉をもらったという。

「開幕から1番・ショートで試合に出られるように頑張ります」

 当時25歳の“オールドルーキー”は、入団会見で怯むことなく大きな目標を口にした。もちろんプロの世界の厳しさは理解している。しかし、あえて自分を追い込むことで、自らを奮い立たせようとしたのである。

 即戦力を期待されるプレッシャーのなか開幕一軍に選ばれた梵は、球団では勝利こそ良薬となるルーキー開幕スタメンを勝ち取った。

 6番・セカンドで出場すると、中日の川上憲伸からプロ初ヒットを放ち、プロ野球選手としての第一歩を踏み出した。

 シーズン終盤の9月、守備練習中にイレギュラーした打球を顔に受け一時登録抹消というアクシデントがあったものの、シーズンの大半を一軍で過ごした。残した成績は123試合出場、打率.289、130安打、8本塁打、13盗塁。球団の新人最多安打記録(112本)も更新し、新人王にも輝いた。すべてが順調に進んでいるはずだった──。(#5に続く)

●梵 英心(そよぎ えいしん)
1980年10月11日生、広島県出身。三次高-駒澤大-日産自動車-広島(2006~2017年)-エイジェック(2018年~)。2005年大学生・社会人ドラフト3巡目でカープ入団。2006年に新人王を受賞。2010年には初の打率3割(.306)を達成し、43個で盗塁王、ショートとしてゴールデン・グラブ賞にも輝いた。2013年には選手会長に就任。2017年オフにカープを退団。2018年に社会人野球・エイジェックで選手兼コーチとしてプレー。2019年10月11日に現役引退を発表。2020年にはJFE西日本硬式野球部のコーチを務め、2021年からはオリックス・バファローズの一軍打撃コーチに就任することが決まった。