護摩行にも同行するほどの間柄だっただけに、新井貴浩氏と石原慶幸氏が揃えば、現役時代のネタには事欠かない。事実、石原氏の引退に際して行われた新井氏との対談では、抱腹絶倒のエピソードが続出! カープファンならずとも必見の対談をとくとご覧あれ!

とびきりの笑顔で一枚の写真に収まる新井貴浩氏と石原慶幸氏。

◆石原は頭の切り替えのタイミングがすごく早い

─ 石原選手は数々の名場面がありますが、新井さんが印象に残っている石原さんのプレーを聞かせてください。

新井 まず印象的だったのは、当時僕はカープにいなかったんですけど、DeNA戦で砂を掴んで走者を牽制したプレー(2013年5月7日)。球は見えていないけど、目と動作で牽制するという動きでしたよね。やっぱり良く見えているなと思いました。僕だったら「球はどこだ? どこだ?」って、バタバタしてたでしょうね(笑)。当然最初はヤバいと思ったでしょうけど、そこを冷静にジェスチャーだけで走者を抑えるという。すごいプレーだと思いましたよ。

石原 あの時は球を見失って、一塁走者の石川雄洋選手が走ろうとしたので、『ただで走らせる訳にはいかない』と思ってその動きをしてみたら帰塁していたんです。あの時、投手が久本(祐一)さんだったんですけど、心の中で「そこ!そこ! じゃなくて早く来てよ!」と思っていたんですよ。あとから映像を見てみると、球が落ちていた部分と全く違う場所の砂をつかんでいたんで、よく石川選手も戻ったなと(笑)。あそこからですね、僕のプレーに“インチキ”という言葉が出てきたのは(笑)。

新井 あれはインチキじゃないよ! 素晴らしいプレーだったよ。改めて石原は冷静な選手だなと感心したよね。

─ 一緒にプレーしていたカープ時代で印象的なシーンはありますか?

新井 あ、そうそう、“アウトになったふりをして二塁から歩いて進”したプレー(2016年7月27日・巨人戦)、あれも面白かったな(笑)。

石原 あれは、1死満塁で僕が二塁ランナーという場面で(田中)広輔がセカンドライナーっぽい当たりを打ったんです。僕はライナーだと思ってヘッドスライディングで二塁に戻ったんですけど……打球はワンバウンドだったんです。『ヤバい、ワンバンだ』と思って、走らないといけないと思い、一、二歩くらい歩いたら……『やばい、これは走ったらダメだ』と咄嗟に思ったんです。相手の守備側もこっちを向いていたので、『これは死に体で歩くしかない』と(苦笑)。

新井 よく考えたら、そのプレーもすごいよな! あの状況で、さすがにヤバいとは思ってたはずですよ。でも、ヤバいと思ってからすぐに考え方を切り替えて、どうする? と考えて『ゆっくり歩いてベンチに帰るような感じでいこう』と瞬時に発想して行動に移せるというのがすごいよ。俺だったら……ドタバタだよ。ヤバい! 全速力で走らなきゃ! と、走ってもムダなのに……みたいになってたと思うよ(笑)。

石原 それ、目に浮かびますね(笑)。

新井 特に印象的な2つの石原のプレーを挙げさせてもらいましたけど、やっぱり冷静であり、頭の切り替えのタイミングがすごく早いですよね。なかなかそういう事ってできないですから。そういう意味でも、石原はやっぱり捕手だな~と思いますよね。

◆楽しかった石原との対戦

─ では、新井さん、石原さん共通で印象に残っているシーンなどがあれば、聞かせてください。

石原 そうですね、新井さんとは一緒にプレーもしましたし、対戦もしています。対戦したときの思い出で言うと、阪神に移籍されてすぐの頃ですが、新井さんはカープの野球を全て知っているので、『この場面ならインコースだろう』みたいな雰囲気でインコースを待たれて、たくさん打たれたというのは、よく覚えていますね。

新井 あの頃の石原はまだ20代で若かったと思うので、まだバッテリーコーチに配球の事を言われていたと思うんですよ。だから「絶対にインコースを厳しく攻めろとコーチから言われているだろうな」という考えが打席の中でありました。それを開き気味で待って、インコースばかり待っていましたよ(笑)。アウトコースの甘いコースなんて全然打ってないのに、インサイドのボール球はバンバン打ってたよな(苦笑)。

石原 ベンチに帰ったら「もっと厳しく行け」と言われたりもしました(苦笑)。

新井 そういう対戦も今振り返ってみれば楽しかったよな(笑)。これが30歳を越えたくらいの石原だったら、そういう対戦はできなかったでしょうね。「アウトコースに投げてれば新井さんは打てないのに」ってね(笑)。

─ 2016年に25年ぶりの優勝を共に経験できたというのも、お二人にとっては大きな出来事だと思います。特に優勝した直後のシーンは印象的でした。

新井 そうですね。優勝が決まった直後は全員と抱き合っていて、黒田さんと抱き合った瞬間に僕も号泣でしたね。

石原 僕からしたら、黒田さんと新井さんは若い頃から『どうしたらカープが勝てるか?』と考えられてきていて、2人しか分からない、通じるものがあったと思います。僕は2人が抱き合う光景がすごく目に焼き付いています。

新井 俺が黒田さんと抱き合う前に、お前と抱き合ってるよな?

石原 はい。

新井 その時って、俺全然泣いてないもんな(笑)。

石原 普通に、ヨッシャ~!! みたいな感じでしたよ(笑)。

新井 そうそう(笑)。そんな感じでみんなと抱き合って、最後に黒田さんと抱き合う瞬間に、黒田さんが号泣しててね。それで俺は一気に涙が来て、止まらなくなったんだよな。

Vol.4に続く