走・攻・守だけではない。しっかりした考え方もプロ野球でやっていくには大事な要素である。入団記者会見を見つめながら、スカウトは、見続けてきた選手たちの資質を再確認した。「今年の選手は、しっかりとした自分の意志を持っているように感じます。人に流されない。そういう選手たちのように感じました」。

 何も上位指名だけではない。ドラフト5位の石原貴規(天理大・捕手)は実戦能力が高い。「スローイングの目的はアウトにすること。そのためには送球の正確さや捕球してからの速さを研究してきました」と話すように、やみくもに『強肩』の二文字だけを追い求めないクレバーさも光る。打撃でも、確実性を増すために『むしろバットを長く持つ』ことで、スムーズなバットの軌道を実現、春季阪神大学野球リーグでは首位打者に輝いた。

 さらに6位の左腕・玉村昇悟(丹生高・投手)も逸材である。「彼の良さである柔らかさを生かしたい」。そんな思いから、指導者は走り込みや体幹トレーニングを重視。一昨年の豪雪では2メートル近い積雪があった。しかし練習環境が整わない時間も積極的にして内での体幹トレーニングにあてた。

 3年夏の福井県大会5試合で52奪三振の大会記録を更新した。しかし、本人は満足していない。「55奪三振までいきたかったです。数だけではありませんが、三振はチームに元気をもたらし、攻撃に流れがつながっていくと思います」。その言葉には、地元の公立校を主将として引っ張ってきた18歳の心意気が感じられた。

 「もう僕らの頭の中は、来年のドラフトのことでいっぱいです。今回のドラフトは、本当にプラン通りに進みました。こういうことはなかなかありません」

「本当にプラン通りに進んだ」と話す苑田聡彦スカウト統括部長。

 74歳のベテランスカウト・苑田は次の秋を見据える。もちろん、全スカウトはルーキーがチームに溶け込むアシストをしながら、大学や社会人のキャンプ視察へと季節を移していく。 

 束の間の達成感から、次なる仕事へ。スカウトマンの激務を、ルーキーの笑顔と新監督の言葉が、そっと後押ししてくれた。

取材・文/坂上俊次(RCCアナウンサー)
1975年12月21日生。テレビ・ラジオでカープ戦を実況。 著書『優勝請負人』で第5回広島本大賞受賞。2015年にはカープのベテランスカウト・苑田聡彦の仕事術をテーマとした『惚れる力』を執筆した。