シーズン前の春季キャンプ、打撃の状態は良かった。力強くなった打球の質は、首脳陣の評価を高めるには十分だった。守備・走塁の色が濃いプレーヤーだが、キャンプではバッティング面の比重を高めて臨んでいた。

 「全体練習のあと、室内練習場で打ち込みなどを行いました。数をたくさんやる中で、分かったこともありました。バテバテの中でバットを振ることで気づくこともありました。体が元気なときは力んでしまいますが、疲れの中でバットを振ると、ちょうど良い力の入れ加減の感覚がありました。無駄な力が入らないんです。もともと力が入りやすいタイプだったので、これは収穫でした」

 無駄な力みを排除した打球は、力加減と反比例するように力強くなっていった。このまま、一軍で走り続けるはずだった。だが、プロ野球の世界は甘くはない。実戦になると、その感覚が発揮できなかった。

 「交流戦でスタメンがあったのに、ヒットを打つことができませんでした。あそこで1本でも打っていれば、状況は変わっていたでしょうね。立った打席は全てがチャンスです。そこで内野安打1本でも出ればよかったのですが……」

 スタメンのチャンスは2試合。しかし、その中で上本はヒットを放つことはできなかった。良い打球はあったが、そこは公式戦。あくまでも結果が欲しかった。

 「立場的なものもあって、1打席の勝負で力んでしまいました。ヒットのHランプが欲しかったです」

 明らかに、ここがシーズンの勝負どころであった。このチャンスをものにできなかった上本は、夏場以降、二軍で過ごす時間が長くなっていっていた。

 「打たないと試合には出られません。足も速い方が良いでしょうが、そういう選手も多くいれば、守備もしっかりやれる選手はいます。やはり打たないといけません。これから打撃にこだわっていきたいです」