スポーツジャーナリストの二宮清純が、ホットなスポーツの話題やプロ野球レジェンドの歴史などを絡め、独特の切り口で今のカープを伝えていく「二宮清純の追球カープ」。広島アスリートマガジンアプリ内にて公開していたコラムをWEBサイト上でも公開スタート!

 純白のスーツに、テカテカ光る真っ白のエナメルシューズ。かつて、その出で立ちこそはカープの選手たちの正装だった。それに加えて衣笠祥雄や江夏豊は黒いサングラスをしていた。

 新幹線移動で新大阪や名古屋の駅に降りると、その筋の人たちが、わざわざ道をあけ、「ご苦労様です」と丁寧にお辞儀をしたという話を聞いたことがある。

 ヘアースタイルも決まっていた。山本浩二を筆頭に江夏も水沼四郎も皆パンチパーマだった。確か、当時は“アイパー”と呼んでいた。広島市の十日市町にアイパー専門店があり、ほとんどの選手が、その店の常連だった。アイパーにあらずんばカープの選手にあらず――。当時はそんな雰囲気だったのだ。

 ドラフト6位ルーキー矢野雅哉の新しいヘアースタイルを見て驚いた。これぞ伝説のアイパー、パンチパーマではないか。1970年代から80年代前半を思い出し、懐かしさがあふれてきた。

 報道によれば會澤翼から「プロは目立ってナンボ」と声をかけられたという。たとえヘアースタイルであっても、他の選手とは一線を画す。生き馬の目を抜くプロの世界を生き抜く上での、いわば処世訓である。

 横浜DeNAの新監督・三浦大輔がリーゼントヘアーにしたのはプロに入ってからだ。エルビス・プレスリーや矢沢永吉に憧れたことに加え、「自らをアピールしたい」という狙いもあったという。そういえば、彼もドラフト6位入団の“雑草”だった。

 オープン戦での矢野の評価は高い。「守備と足は即戦力」といわれる。器用貧乏で終わらないためには、「オレは脇役じゃない」というアピールが必要だ。その意味でもパンチパーマのインパクトは抜群である。

(広島アスリートアプリにて2021年3月15日掲載)

毎週月曜日に広島アスリートアプリにてコラム「追球カープ」を連載中。
※一部有料コンテンツ

▼二宮清純の人気コラム等を多数掲載!ウェブサイト「SPORTS COMMUNICATIONS」はこちら▼

----------------------------------------------------------------------------------

二宮清純(にのみや せいじゅん)
1960年、愛媛県生まれ。明治大学大学院博士前期課程修了。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。広島大学特別招聘教授。ちゅうごく5県プロスポーツネットワーク 統括マネージャー。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグなど国内外で幅広い取材活動を展開。『広島カープ 最強のベストナイン』(光文社新書)などプロ野球に関する著書多数。ウェブマガジン「SPORTS COMMUNICATIONS」も主宰する。