スポーツジャーナリストの二宮清純が、ホットなスポーツの話題やプロ野球レジェンドの歴史などを絡め、独特の切り口で今のカープを伝えていく「二宮清純の追球カープ」。広島アスリートマガジンアプリ内にて公開していたコラムをWEBサイト上でも公開スタート!

 開幕前、ラジオ番組で、達川光男さんと新外国人のケビン・クロンについて話した。「彼が爆発すれば優勝ですよ」と達川さんは言った。では爆発しなければ……。残念ながら、今のところ爆発の予感はない。

 それどころか、4月5日には上半身のコンディション不良のため、出場選手登録を抹消された。ここまでの成績は8試合に出場して打率1割9分2厘、1ホームラン、1打点、9三振。3週間前の小欄でクロンについて書いた。「変化球への対応力に難あり」「外角低めへの逃げるボールのジャッジが不正確」というメジャーリーグのスカウティングレポートに出ていた評価を紹介した。それを覆す兆しは見られない。

 厳しい言い方だが、今のままなら復帰してきても多くは期待できない。もし変身できるとしたら……。私は今こそコーチの出番だと考える。実際、過去には、そんな例があったのだ。

 1988年途中に中日から近鉄に移籍したラルフ・ブライアントは「当たればホームラン、当たらなければ三振」という典型的なバッターだった。バッティング自体がギャンブルのようなブライアントを変えたのは、中西太の熱血指導だった。

 内角が苦手なブライアントに、中西は毎日40分、そこに徹底してスローボールを投げ続けた。左のブライアントに「右手でリードして左手で押し込む感覚を掴ませた」のだ。これを機にブライアントは大変身をとげる。内角を苦にしなくなれば、体が開かず、自ずとしてアウトローも打てるようになる。これが中西の狙いだった。

 右のクロンには、この逆をやればいいのだ。「そんなにバッティングは単純じゃないよ」「打者によって指導法は違うんだよ」。そんな声が外野から聞こえてきそうだ。その通りである。でも、ダメ元でもやらないよりはやった方がいいだろう。せっかくの真面目外国人も、今のままなら1年でお払い箱である。

(広島アスリートアプリにて2021年4月12日掲載)

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二宮清純(にのみや せいじゅん)
1960年、愛媛県生まれ。明治大学大学院博士前期課程修了。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。広島大学特別招聘教授。ちゅうごく5県プロスポーツネットワーク 統括マネージャー。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグなど国内外で幅広い取材活動を展開。『広島カープ 最強のベストナイン』(光文社新書)などプロ野球に関する著書多数。ウェブマガジン「SPORTS COMMUNICATIONS」も主宰する。