培った肉体を、野球理論のレールに乗せる。そうすれば、目指す球道に近づいていく。いつしか、鈴木は関東でも指折りの本格派投手に成長、ドラフト上位候補として専門誌でも頻繁に名前の挙がる存在になっていった。ただ、高校最後のピッチングはハッピーエンドとはいかなかった。2019年8月7日、夏の甲子園1回戦でいきなり優勝候補の履正社高(大阪)と対戦、148キロをマークしながら3回途中7失点で降板となったのだ。

 「力み過ぎました。2ストライクとなっても、追い込んでから力んでしまいました。それにコントロールです。カウントを整えるコントロールはあっても、勝負球の制球力はありませんでした」

 悔しいマウンドを終えて、鈴木はすぐに前を向いた。少年時代から憧れたプロ野球である。甲子園で敗退はしたが、練習にはますます力が入った。

 「外角低め、ストレートのコントロールに取り組みました。とにかく集中してやりました。僕の球は少しスライダー回転するところがあったので、そこは意識してやりました」

 体重増加も着実だ。70キロ→72キロ→79キロ、そしてプロになった今、83キロになった。もちろん、これが全てでないことは知っている。大きくなった規格を、理に適った投球フォームというレールに乗せる。その方向性にブレはない。

 「球質を重くしたいですし、力強い投手になりたいです。そのためには、体づくりと球への力の伝え方、両方をしっかりやっていきたいと思います」

 肉体が『機関車』ならば、投球フォームは『レール』だろうか。そんな理路整然の18歳には目指す『駅』もある。 

 「高校の先輩である遠藤(淳志)さんです。指にかかった伸びのあるストレートは目標です。身長も同じくらいで、最初は細身だったと聞きます。共通するところも多いので、遠藤さんのようになりたいです」

 1年目は体づくり、2年目でブレイク、3年目は一軍の主力投手の期待すらある。そんな先輩の背中を追いかける。理路整然にして無我夢中、高いポテンシャルを持つ18歳だ。待ち受ける野球人生は、特急列車かもしれないし、各駅停車かもしれない。ただ、無限の振れ幅は、エースの器を培っていくに違いあるまい。

取材・文/坂上俊次(RCCアナウンサー)
1975年12月21日生。テレビ・ラジオでカープ戦を実況。 著書『優勝請負人』で第5回広島本大賞受賞。2015年にはカープのベテランスカウト・苑田聡彦の仕事術をテーマとした『惚れる力』を執筆した。