スポーツジャーナリストの二宮清純が、ホットなスポーツの話題やプロ野球レジェンドの歴史などを絡め、独特の切り口で今のカープを伝えていく「二宮清純の追球カープ」。広島アスリートマガジンアプリ内にて公開していたコラムをWEBサイト上でも公開スタート!

 6月3日現在、カープのチーム打率2割6分はリーグトップ。にもかかわらず得点数155はリーグ5位。クラスターが発生したことで、他球団より試合数が少ないことを考慮しても、決定力に欠けると言わざるを得ない。

 隣の芝生は青く見えるというが、ヨソのチームを見ていると、いいところでタイムリーが飛び出し、ビッグイニングが生まれる。ところがカープときたら……。

 おそらくヒットを狙わせたら世界一の技術者であるイチローが、以前、テレビでこんなことを言っていた。「詰まるのが負けという発想は捨てることだね」。そして、こうも。「グシャッとした当たりが外野手の前に落ちる。あれがピッチャーには一番きくんだよ」

 さすがイチローである。どんな当たりが一番ピッチャーにダメージを与えられるか。彼はそこまで頭に入れて打席に入っていたのである。

 翻ってカープの選手の場合、鈴木誠也、菊池涼介、西川龍馬、會澤翼ら熟達のバッターは別にして、チャンスでの打席において、一振りで仕留めようという意識が強過ぎるのではないか。それが原因で体に余計な力が入り、チャンスがピンチになっているように見受けられるのだ。

 イチローではないが、「グシャッとした当たりがポテンヒットになったらピッチャーは嫌だろうね」とか「ここでボテボテのゴロを打ったら内野手は焦るだろうね」といった、ちょっとした悪戯心も必要ではないか。また、その方が心に余裕が生まれるはずである。快音を発した当たりだけがヒットではないのだから。

(広島アスリートアプリにて2021年6月7日掲載)

毎週月曜日に広島アスリートアプリにてコラム「追球カープ」を連載中。
※一部有料コンテンツ

▼二宮清純の人気コラム等を多数掲載!ウェブサイト「SPORTS COMMUNICATIONS」はこちら▼

----------------------------------------------------------------------------------

二宮清純(にのみや せいじゅん)
1960年、愛媛県生まれ。明治大学大学院博士前期課程修了。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。広島大学特別招聘教授。ちゅうごく5県プロスポーツネットワーク 統括マネージャー。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグなど国内外で幅広い取材活動を展開。『広島カープ 最強のベストナイン』(光文社新書)などプロ野球に関する著書多数。ウェブマガジン「SPORTS COMMUNICATIONS」も主宰する。