◆後輩との距離感を縮めてきた折に、黒田、新井の復帰が加わりリーグ優勝へ

 このような流れによって、チームが若く、明るく、いい雰囲気になってきた2014年のオフ、黒田と新井が思いがけぬ移籍によってカープに復帰した。2015年に監督は緒方孝市に替わり、2016年に悲願のリーグ優勝を果たしたのは周知の事実である。

 メジャー帰りの黒田はその“男気”によって誰からもリスペクトされ、新井は自ら率先して若手に接して壁を取り払う。菊池涼介からは、「お兄ちゃん」と呼ばれるまでになっていた。

 石原は、新井の後輩に対するコミュニケーション術に影響を受けている。

【新井さんが自ら若い野手たちに歩み寄って親しく接するようになったことで、僕も後輩たちとよく話をするようになっていった。これぞ、周りをほんわかムードにする新井さんのおかげだと思っている。なにしろ、新井さんにかかれば誰でもみな家族。言ってみれば“人類みな兄弟”だ。僕もつられてしまい、若い選手たちとの距離がグッと縮まった。】

 こうして、充実した時を過ごした石原は、翌2017年、さらに2018年と、カープが3年連続リーグ優勝の偉業を達成する中で、捕手としてはもちろんのこと、人と人とをつなぐ役割としてもチームに大きく貢献した。

 これは、石原が「勇気を出して一歩踏み込んだ」コミュニケーションをとろうと自分自身を変革したことに対するひとつの答えであり、集大成といえる成果だった。

(vol.4に続く)

◆著者プロフィール
キビタキビオ
1971年生まれ、東京都出身。2003年に『野球小僧』(白夜書房)にて、野球のプレーをストップウオッチで計測・分析する「炎のストップウオッチャー」でライターデビュー。同誌の編集部員となり約9年務めたあと、2012年春からフリーとなり、雑誌記事の取材・執筆や書籍の編集協力・構成等に携わる。『野球人生を変えたたった一つの勇気~18・44mのその先に』(石原慶幸/サンフィールド)では構成を担当。『球辞苑』(NHKーBS)などのテレビ番組やイベントにも出演する。

◆書籍紹介
石原慶幸著『野球人生を変えた たった1つの勇気〜18.44mのその先に〜』(サンフィールド)
元広島東洋カープ・石原慶幸さん初の著書。野球を始めた幼少期から、高校・大学時代、そして広島東洋カープでプレーした19年間を軸に、捕手として生きてきた“石原氏独自のコミュニケーション”をコンセプトとした1冊。野球観を変える転機となったマーティー・ブラウン監督との対話、カープ低迷期の苦悩からリーグ3連覇までの舞台裏、さらに石原氏のキャリアで大きな影響を与えた黒田博樹氏、新井貴浩氏との秘蔵エピソードなど、これまで明かされることのなかった石原氏の思いも注目。