キャッチャーマスク越しに鋭い視線を送る中村奨成選手。

 プロ野球は、オールスター、東京五輪による約1カ月間の中断期間に入っている。各球団はこの期間中、「エキシビジョンマッチ」を行いながら後半戦開幕に向けて調整を続けることになるが、シーズン中に公式戦以外の実戦がここまで行われることは例年であればまずない。

 当然、「非公式戦」だからこその見ごたえも多くあるのだが、カープで注目したいのがプロ4年目・中村奨成の起用法だ。

 前半戦を終えて36試合に出場、打率.275、2本塁打と着実に出場機会を増やしている中村だが、その起用法は代打か外野手での出場がメイン。本職である「捕手」としての出場は決して多くなく、スタメンマスクはわずか2試合にとどまっている。

 會澤翼や坂倉将吾、石原貴規、磯村嘉孝といった先輩捕手の壁が高いのはもちろんだが、「打力」の評価が高く、結果も残しているだけに捕手以外のポジション起用が増えている印象だ。

 2017年夏の甲子園で、あの清原和博の記録を破る1大会6本塁打を放つなど、中村にはどうしても「強打の捕手」のイメージが強い。もちろん、持ち前の打撃を生かしながら、今後は捕手以外のポジションも経験しつつ、将来的にはコンバートを視野に入れることもけっして悪くはない。

 しかし、夏の甲子園で見せた中村の「インパクト」は決して「打」だけではなかったことは、声を大にして伝えたい。

 あの夏、甲子園で一大センセーショナルを巻き起こす前まで、中村の評価はむしろ「強打」よりも「強肩」に比重が置かれていた。

 実戦や試合前の送球練習を見れば、その評価に誰もが納得するはずだ。二塁送球では指先から放たれたボールがライナー軌道で遊撃手のグラブに突き刺さる。甲子園でも、試合前の練習からその送球の強さにはどよめきが起こっていた。

 加えて、フィールディングの良さも特筆モノだった。バント処理では素早いダッシュから打球に追いつき、すぐさま二塁、もしくは三塁へ文字通り「矢のような」送球を見せる。

「強肩」の二文字では表しきれないほど、中村の肩は高校球界では群を抜いていた。プロ入り後もその強肩は衰えていない。地肩の強さで言えば、プロの世界でもトップクラスだろう。

 もちろん、「捕手」としての課題はたくさんある。肩が良いだけで務まるほど、プロの捕手は甘くない。キャッチング、インサイドワーク、リード……。これらのファクターは「経験」による積み重ねがモノをいう。

 だからこそ、シーズン中に行われる「エキシビジョンマッチ」では、もっと中村がマスクをかぶる姿が見たい。坂倉も石原も、もちろんまだまだ捕手としての経験が必要なのは間違いないが、「非公式」の戦いだからこそ、捕手登録でありながら捕手としての出場機会が最も少ない22歳の若者に、多くの経験を積ませてほしい。

 甲子園で見せたあの「爆肩」を、プロの舞台でもっと見たいと思うのは、筆者だけではないはずだ。