2019年夏、名門・広島商業のトップバッターとして15年ぶりの甲子園出場に貢献した天井一輝。亜細亜大で1年時から活躍する彼は、広商時代に鍛えた技術と精神力に支えられている。

亜細亜大では1年時から試合でプレーする天井一輝選手。

◆自信を持ってプレーした最後の夏。原動力は広商で養った強い精神力

「挨拶や全力疾走など、プレー以前のいち野球人としての所作や礼儀が今も生きていると思います」

 名門・広島商業(以下、広商)で培ったものをそう振り返るのは、亜細亜大2年の天井一輝だ。昨秋は1年生ながら東都大学リーグで打率.300を記録し亜細亜大の優勝に貢献。新人賞を獲得した将来有望な外野手だ。

 カープが好きで、南観音小時代に軟式野球を始めた時から『広商』は身近な存在だった。もともと実家は学校から自転車で7分ほどのところだったことに加え、入団した南観マリナーズの監督は広商の3番・遊撃手として1988年夏の甲子園制覇を果たした山本淳見さんだった。6年時には全国大会に出場。練習は厳しかったが、礎をつくってくれた山本さんには今も感謝の気持ちを忘れていない。

「情熱がすごくある方で、自分は主将をしていたので、人一倍怒られました。山本さんのおかげで今の自分があると思います」

 観音中時代は八幡少年野球クラブでプレー。2017年春に「公立校で広陵などの強豪私学を倒したいという思いがずっとあったので」と広商に入学した。

 入学後は生活面での厳しいルールもあったが甲子園出場に向けて日々、汗を流した。決して広くはないグラウンドで「稼働率100%」を掲げて、至るところで練習を止めないように時間と場所を有効活用した。天井も打撃練習を眺めるのではなく素振りをして待つなど、気を抜くことなく練習に励んだ。

 最後の夏は、その前の春季大会を制していただけに「自信を持って戦うことができました」と振り返る。県4回戦の神辺旭戦では「延長10回2アウトまで負けていましたが、チームに負けると思っていた選手は誰もいなかったはずです」と話すほどの精神力で7対6の逆転サヨナラ勝ち。試合を決めたのは、この日6打数4安打3打点の大活躍を遂げた天井だった。

 さらに準決勝の広陵戦でも5打数5安打を放つなど甲子園出場に貢献した。この出場により、広商は大正、昭和、平成、令和と4元号での甲子園出場となりOBたちからも大いに祝福を受けた。初戦で岡山学芸館に5対6で惜敗するも、聖地に立てた高ぶりは想像以上だったという。

「僕らの前の試合がサヨナラで終わったので、急いで準備をして試合に入って、あっという間に試合が終わりました。甲子園はスタンドが大きくて、いつもテレビで見ていた選手やチームと同じ舞台に立てることができてうれしかったです。最初の打席に入った時は足が震えました」

 帰郷してから初めて仲間たちと行ったボウリングも良い思い出だと語り「(夏の公式戦後)一度、しっかり遊ぶことも大事だと思います」と助言を送る。一方で、「一度の人生なので、好きなことを思いっきりやって欲しいですね」と、高校卒業後も夢に向かって突き進んで欲しいと考えている。

 自身の夢はもちろん「プロ野球選手」だ。憧れの選手には丸佳浩(巨人)を挙げる。「寮の食事がメチャクチャ美味しい」と体も大きくなり、日々の妥協なき練習にも打ち込み、心技体で成長を続けている。

取材・文:高木 遊