2021年夏の高校野球広島大会は全90校・86チームが熱い戦いを繰り広げた。広島県内の球児、彼らを支える全ての人々は、それぞれの状況の中で必死に野球に取り組んできた。ここでは「広島県高校野球ダイジェスト」編集部が注目した“3つの高校のストーリー”をお届けする。第1回は、全国的に強豪校として知られる広陵のマネジャーの思いに迫った。

強豪・広陵野球部のマネジャーとしてチームを支え続けた武田凌君(3年)

◆故郷を離れ広陵に進学。ケガが転機に

 甲子園出場回数は夏23回、春のセンバツ24回といずれも広島県内トップ。甲子園での優勝経験もあり、広島大会では毎年優勝候補に挙がる広陵高校。高校野球ファンのみならず、強豪校であることは周知のところ。今夏大会を迎えるにあたり広陵高の野球部員は約150人。そんな大所帯を陰で支え続けてきたのが、選手からマネジャーに転身し、献身的にチームを支える武田凌(3年)だ。

 彼は練習開始直後のアップの仕切り、ノック補助、練習が切り替わるタイミングで素早く準備に取り掛かるなど、誰よりも機敏な動きで練習をサポート。さらに試合ではベンチ入りし、スコアをつけながら、必死で選手たちを鼓舞し続けた。

「自分たちがいるときに甲子園に行けないことが続いたので、先輩たちや指導者の方のためにも自分たちの代で甲子園に連れていって日本一をとるという思いでやっています」

 武田がいるからこそ、練習が円滑に回っていると言っても過言ではないだろう。彼と同学年のベンチ入りメンバーに武田について聞けば、感謝の言葉ばかりが並び、チームメートからの絶大な信頼を得ている。

 広陵は県外から入学した選手も在籍しており、神奈川県出身の武田はその1人だ。

「中学2年の頃に雑誌の記事やYouTubeの動画などを見ている中で広陵を知ったり、中井先生のことを知りました。中井先生の本を読んだりして、広陵に行きたいと思ったことがきっかけです」

 そういう思いで遠く離れた広島で野球をやることを決断。甲子園出場を目標にして練習に励んでいたが……1年生の頃にケガもあり、手術も経験。彼は十分に野球ができない状況となってしまった。

「自分でも決めきれず、まだ野球をやりたい気持ちはありました。でも自分がこの状況で一番輝けて、チームの役に立てる場所が何かと考えたときにマネジャーという仕事であればチームの役に立てると思って決めました」

 2年生になったばかりの4月、彼は悩み抜いた末に自ら志願し、チームメートからの推薦もあってマネジャーになる決断をした。