スポーツジャーナリストの二宮清純が、ホットなスポーツの話題やプロ野球レジェンドの歴史などを絡め、独特の切り口で今のカープを伝えていく「二宮清純の追球カープ」。広島アスリートマガジンアプリ内にて公開していたコラムをWEBサイト上でも公開スタート!

 ツインズのマエケンこと前田建太がさる9月1日(現地時間)、トミー・ジョン手術を受けた。右ヒジへの腱だけの移植ではなく、「インターナル・ブレース」というテープを用いて、傷ついた内側側副じん帯を補強した。スポニチ紙(9月3日付け)によると<完治までの期間を大幅に短縮できる可能性がある>という。

 元カープの選手だけに、マエケンのことは気になる。黒田博樹のように、いずれ古巣に帰ってきてもらいたい、という気持ちがあるからだろう。

 トミー・ジョン手術を受けた場合、復帰までには最短でも1年はかかる、といわれていた。日本人として初めてこの手術を受けた村田兆治は1983年8月にメスを入れ、84年8月に復帰した。通算215勝の村田は復帰後、59の勝ち星を積み上げた。

 海を渡ってからトミー・ジョン手術を受けた選手としては松坂大輔、和田毅、藤川球児、ダルビッシュ有、大谷翔平らの名前が思い浮かぶ。手術後も手術前と変わらないパフォーマンスを披露している者もいれば、そうじゃなかった者もいる。“勤続疲労”の度合いにもよるのだろう。

 手術後に重要なのはリハビリだが、「フォームも改良しなければならない」と語るのはスポーツドクターで整形外科医の坂山憲史(南松山病院副院長)だ。
「うまくいっている例としてはダルビッシュや大谷があげられます。手術前はテイクバックを大きくとっていましたが、手術後は腕を耳の隣に通すような投げ方になった。これだとあまりヒジに負担がかからず、再発防止にもつながる。手術後のフォームについてはコーチやトレーナーとも相談する必要があるでしょうね」

 日本では「ピッチャーはヒジにメスを入れたら終わり」という時代が長く続いた。村田も、ずっとその言葉を信じていたが、どんな治療を行っても効果がなく、わらにもすがる思いで手術台に乗った。結果的には、それがよかった。手術の技術が進歩した今、米国では手術後にパワーアップしたピッチャーを、しばしば「バイオニック」と呼ぶ。「超人」とか「サイボーグ」といった意味だ。ニュー・マエケンも、そうであって欲しい。

(広島アスリートアプリにて2021年9月6日掲載)

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二宮清純(にのみや せいじゅん)
1960年、愛媛県生まれ。明治大学大学院博士前期課程修了。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。広島大学特別招聘教授。ちゅうごく5県プロスポーツネットワーク 統括マネージャー。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグなど国内外で幅広い取材活動を展開。『広島カープ 最強のベストナイン』(光文社新書)などプロ野球に関する著書多数。ウェブマガジン「SPORTS COMMUNICATIONS」も主宰する。