2021年夏の高校野球広島大会は全90校・86チームが熱い戦いを繰り広げた。広島県内の球児、彼らを支える全ての人々は、それぞれの状況の中で必死に野球に取り組んできた。ここでは「広島県高校野球ダイジェスト」編集部が注目した“3つの高校のストーリー”をお届けする。最終回は、野球部員はすべて地元出身、わずか25名で2021年夏を戦った、油木高校野球部の取り組みに迫る。

町営グラウンドで練習に励む油木高校野球部

◆地元の人々の思いが詰まった町営グラウンド

 岡山との県境に近い山間部にある広島県神石郡唯一の高校である油木高校。近年では『ナマズプロジェクト』で話題も集めている。

 部員不足で一時期は単独チームとして試合に出場できない時期もあったが、地域からの支援もあり、2019年には21世紀枠の候補校にも推薦されるなど、少人数ながら奮闘を見せている野球部だ。今夏大会は1回戦で広島工業と対戦し、1-8で敗退となったが、3年生を中心に地域を盛り上げようと活動を重ねてきた。

 部員数はマネジャー3人を含む25人。専用練習グラウンドを持たず、学校から離れた町営の天神原グラウンドで彼らは日々練習を行ってきた。

「施設的なところで言うと、雨のときは町の屋内練習場をお借りして練習をさせていただいています。役場をはじめ、町民のみなさんが野球部を応援してくださっています。今はコロナの影響で吹奏楽の応援はできませんが、町長自らが楽器を演奏して応援してくださることもありました。油木高野球部が練習するだけで町が盛り上がるという声も聞いています」(森藤部長)。

 地元出身の部員ばかりということもあり、良い意味で3年生から1年生まで見分けがつかず、先輩後輩がなんでも言える雰囲気で練習が行われていた。

◆地元の人々の思いが詰まった町営グラウンド

 数年前には人数が足らず連合チームとして試合に出ていた油木高。この状況を小さな頃から見てきたメンバーが野球部には集まっている。主将の後藤優輝君(3年)は誰よりも熱い気持ちを持ち、

「同じ中学のメンバーで油木高を強くしようという思いを持って進学しました。強い高校に行くのも良いことだと思うんですけど、高校進学前に油木高野球部がボコボコに負けている試合を見て、「僕たちがどれだけ強くできるんだろう?」とよく話をしていました」

 地元出身の彼らは、自分たちで高校の歴史を開拓しようと必死でプレーしてきた。また地域貢献の一貫として、地元の子どもたちを対象にした野球教室を積極的に行ってきた。

「自分たちが行った野球教室のように、他の高校があまりしていない取り組みをどんどんして、油木高のネームバリューというか、高校の価値を野球部が上げる存在になっていってほしいです」(後藤君)

 野球部を率いるのは就任6年目の山中将司監督。2019年の秋季大会ではベスト16入りに導いた。

「僕らがどれだけノビノビさせてあげられるか」

 自然豊かな地元で育ち入部してきた部員が多いだけに“ノビノビ野球”を基本としながら熱く指導を続ける。

「(野球教室で)子どもたちを集めたのも、もともとは地域に貢献したい気持ちが一番にありました。町として子どもたちの数が少なくなる中で、油木高も生徒数が少なくなってきています。一人でも野球をやりたい子を増やしたいです」

 地域活性化と共に野球人口増にも尽力する。町営グラウンドでの練習では部員に負けず山中監督の大きな声も響き渡っていた。

「私たちが一生懸命に練習、試合をやっていくことで学校が活気づいたり、町全体が元気になってくれたら良いなと。そういう思いを持って野球をやらせていただいています」

 地元地域と共に歩む油木高野球部。改めて高校野球がもたらす影響力とパワーを感じさせてくれた。