4番を支えた新井貴浩の助言

 4番としての心構えを聞くため、長らく4番を務めた新井にもアドバイスを求めた。新井と言えば低迷期のカープで、極度の重圧を感じながら主軸を張り続けた先駆者だ。2003年、金本知憲の阪神へのFA移籍に伴い4番に座るも、そこから2年間はスランプに陥った。首脳陣に「4番を外してください」と直訴するなど、精神的にも追い詰められることもあった。高卒、大卒の違いはあるとはいえ、同じプロ5年目。鈴木の気持ちは痛いほど分かった。当時、新井は鈴木についてこのように語っている。

「端から見ていて『ちょっとイライラしているな』『精神的にも参っているな』と感じていました。そういうときは僕から誠也に声をかけていました。そのとき彼に言ったのは『とにかく我慢するんだぞ』と。それと『4番を打つ苦しみ、喜びというのは4番を打った人間にしか分からないし、孤独な時もある』と、僕自身が4番として経験したことを彼に伝えていきました」

 新井は鈴木に助言し、鈴木も積極的に助言を求めるようになるなど、2017年以降は会話をする機会も格段に増えていた。もちろんアドバイスを受けたからといって、すぐに出口が見えるわけではない。それでも頼れる兄貴分の存在は、間違いなく4番定着の足掛かりとなった。

「理想の4番ですか……正直今は全く分からないですし、それを考える余裕がありません。なので、まずはケガをしないように頑張りたいですし、まだまだシーズンは続いて試合数も残っているので、きっちり自分の仕事をしていくだけだと思っています」

 葛藤の日々を送るなか、オールスターゲームにはファン投票で得票数1位を獲得して2年連続で出場。全国の野球ファンから、その実力が認知されつつあることを証明していた。そして後半戦、連覇へひた走るカープの4番として奮闘していた8月、鈴木に試練が訪れることになる。

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