9月19日現在、カープは43勝59敗10分でリーグ最下位に沈んでいた。チーム打率こそリーグトップの.260を記録しているが、得点417、盗塁数52といずれもリーグ5位の数字となっている。

 カープ野球といえば、“伝統の機動力野球”というイメージが強い。そういう意味では、今季足を使った攻撃力の復活が期待されていただけに、“カープらしい攻撃”は鳴りを潜めている。

 1980年代、“赤ヘル軍団”と呼ばれたチームを率いた古葉竹識監督は、機動力野球を推進し、高橋慶彦、山崎隆造らが塁上を駆け巡って幾度も得点機会をつくり続けてきた。カープ伝統の機動力野球とは? 以前、古葉氏が広島アスリートマガジンで語っていた“自身が考える機動力野球”を、改めて振り返っていく。

カープ監督を11年間務めた古葉竹識氏。チームを4度のリーグ優勝、3度の日本一に導いた。

◆『機動力を使った緻密な野球』がモノを言う

 私が監督時代は長いシーズン『嫌らしい野球をする』ことをポイントに戦いを進めていました。当時130試合中、75勝が優勝ラインでした。そこを目指すには、1点を争う試合をいかに拾うかが重要になります。

 そこで『機動力を使った緻密な野球』がモノを言うのです。だからこそ『機動力を使える選手』を多く作り上げることを念頭においたチーム作りを進めました。当時は山本浩二、衣笠祥雄など打点を稼げる打者で中軸を固めることができました。だからこそ、足の速い選手の育成に力を注ぎましたし、守りも含めて機動力を生かした野球を展開することでチーム力の向上に繋げていきました。

 当時『足』でチームを支えてくれた選手の代表格が髙橋慶彦でした。私は現役時代、左打者が三塁へセーフティを決める場面を見て、『自分も左打者ならもっと率を残せたかもしれない』といつも思っていました。その思いもあり、慶彦には『スイッチヒッターになれ』と言ったのですが、誰も寄せ付けないほどの猛練習を行って成功してくれました。

 慶彦がきっかけとなり山崎隆造、正田耕三も成功しました。彼らも右だけなら『走る、守るだけの選手』になっていたでしょう。しかし慶彦が手本を示してくれたおかげで、似たタイプの選手としていい流れを受け継いでいってもらったと思っています。

 上位打線を打つ足の速い選手は、走者となれば一塁から二塁、二塁から三塁へと走るという仕事があります。そして『いかにバッテリーにプレッシャーを与えることができるか?』が、一番大事な仕事となります。

 打線の中軸には当然いい打者が揃う訳ですから、得点を奪う可能性も高くなります。走者が相手投手に多くクイックで投げさせることでコースが甘くなる確率も高くなるので、打者を助けることにもなります。「打者をいかに楽に打たせるか」、「投手のミスを誘う」など、常に頭を使うこと、そしてチームのバランスが整っていて、役割分担、個々の状況判断ができている。これらの要素が揃ってこそ『機動力野球』が展開できるわけです。