10月11日に迫ったドラフト会議。プロ野球選手を目指す全てのプレイヤーにとっては“運命の日”だが、同時に各球団にとっても将来を左右する大事な一日になる。

 10月11日に迫ったドラフト会議。プロ野球選手を目指す全てのプレイヤーにとっては“運命の日”だが、同時に各球団にとっても将来を左右する大事な一日になる。しかし、ドラフトを本当の意味で“評価”できるのは早くても数年後。指名した選手がプロでどんな成長を見せ、チームの戦力になるかは誰にも分からない。

 今回は2012年、のちに不動の4番に君臨することになる“あの選手”指名のウラ側に迫る。

同期入団の選手と共に入団会見に臨む鈴木誠也選手(右下)(2012年)

◆3年で1軍のレギュラーになれると猛プッシュ

 ロンドン五輪で日本選手団が史上最多のメダルを獲得し、政権が民主党から自民党・公明党に移った2012年。カープは1998年から続く連続Bクラスの記録が15年に延び、“低迷期”の真っただ中にいた。

 例年、シーズン開幕前の時点でその年の「補強方針」を全スタッフが共有し、スカウティングに生かしているカープは、この年の「狙い目」を先発投手と将来の遊撃手候補に絞っていた。

 当時のカープには梵英心が正遊撃手として君臨していたが、年齢的には31歳。近い将来を見据えた後継者探しは急務だった。

 迎えたドラフト当日、カープが1位で指名したのは森雄大(東福岡、現楽天)。この年のドラフトは大谷翔平(花巻東、現エンゼルス)、藤浪晋太郎(大阪桐蔭、現阪神)、東浜巨(亜細亜大、現ソフトバンク)、菅野智之(東海大卒、現巨人)らが注目されていたが、身長184センチ、最速148キロを誇る森は当時チームに不足していた左腕でもあり、補強ポイントにもマッチ。エースの座を不動のものにしつつあった前田健太(現ドジャース)と近い将来、左右の両エースを担える逸材として期待されていた。

 しかし、森にはカープだけでなく楽天も1位入札。抽選の結果、交渉権を失うことになる。さらに“外れ1位”では即戦力へとシフトチェンジし、社会人の増田達至(NTT西日本、現西武)を狙うも、ここでも西武との競合に敗れてしまう。

 抽選で2連敗を喫し、当初の「戦略」を大幅に軌道修正しなければいけなかったカープは外れ外れ1位で強打の高校生野手・髙橋大樹(龍谷大平安)を指名。

 そして運命の2位指名。ウェーバーで5番目の指名権をカープは持っていたカープは、鈴木誠也(二松学舎大付)を指名する。筆者は以前、担当スカウトだった尾形佳紀氏に鈴木誠也獲得の経緯を取材したことがある。尾形は、当時をこう振り返る。

「高校時代の誠也は投手と一塁を主に守っていました。ただ、私は彼を『遊撃手』として評価した。投手として148キロを記録した強肩はもちろんですが、一番は彼が纏うオーラ。ユニフォームの着こなしや走り姿から、抜群の野球センスを感じました。誠也ならプロでも遊撃手としてやれるはず。チームには『3年で1軍のレギュラーになれる』と猛プッシュしました」

 高校時代の鈴木誠也は投手としてはもちろん、強打の野手としても活躍。走攻守3拍子揃った選手として、プロからの評価も高かった。その中でも尾形は、鈴木誠也の持つポテンシャルを最も評価していたスカウトのひとりだ。

「指名を推すにあたって、当然クリアすべき壁はありました。甲子園出場経験がなく、高校までは違うポジションを守っていた誠也を『遊撃手候補』として指名するには、決め手が欲しかった。そこで私は、誠也のプレーをまとめたDVDを自作し、それを持って会議でプレゼンすることにしたんです」

 編集されたDVDは鈴木誠也の「好プレー」をまとめたもの。会議の席で尾形は映像をベースに彼がいかに素晴らしい素質を持っているかを球団にアピールした。

「最後まで気になったのは『指名順位』です。彼に実力があることを認めてもらっても、先に他球団に指名されたら意味がない。正直、『3位以下でも獲れるのでは?』という声があったのも事実です。ただ私は『3位以下だと他に獲られるかもしれない。確実に狙うなら2位です』と、あくまで上位指名にこだわりました」

 結果として、カープは鈴木誠也を2位で獲得。尾形の熱意が実を結んだ形だが、もし1位指名で競合に敗れず、森や増田を獲得できていたら、2位以下の指名方針が変わっていた可能性も十分ある。

 カープ入団後の鈴木誠也の成長ぶりは、ご存じの通り。

「正直、遊撃手ではなく外野手として出てきたのはちょっと意外でした(笑)。ただ、3年目には1軍に定着し、4年目にはブレイク。ポジションは違いますけど、期待通り、期待以上の活躍を見せてくれているのは、スカウト冥利に尽きます」

 尾形は自身がほれ込んだ逸材のプロでの活躍をこう振り返る。

 ひとりのスカウトの熱意が、のちにチームの顔となる選手の運命を大きく変えた。もちろん、変わったのは鈴木誠也の運命だけではない。もし、他球団がカープに先んじて彼を指名していたら……。

 ちなみにこの年、鈴木誠也以外にカープから指名を受けた1位の高橋、3位の上本崇司(明治大)、4位の下水流昂(ホンダ、現楽天)はプロ9年目の今季も現役を続けている(※5位指名の美間優槻はソフトバンクに移籍後、2019年に現役を引退)。

 みな、レギュラーとまではいかずともチームに貢献している面々ばかりだ。1位指名で抽選2連敗を喫した2012年ドラフトだが、あれから9年経って改めて振り返ると、その評価は大きく変わっている。

 だからこそ、ドラフトは面白い――。