2021年プロ野球のタイトル争いも熾烈を極めてきた。10月22日時点のセ・リーグの首位打者争いを見ると、カープの鈴木誠也が打率.322でトップを走る。鈴木は本塁打王争いにおいてもトップに1本差の38本塁打を放っており、打撃部門2冠も見えてきた。

 今シーズンのカープ打線を見ると、鈴木誠也を中心に主力の打者のメンバーは菊池涼介、西川龍馬、坂倉将吾、小園海斗、林晃汰らがいるが、左打者が多くを占めている。先日行われたドラフト会議では、ドラフト3位でトヨタ自動車の主砲・中村健人、そして6位指名で大阪ガスの末包昇大と、補強ポイントである“右の大砲”を相次いで指名した。

 2013年にカープに入団した鈴木は、順調に成長していく中で球界を代表する右の強打者となった。鈴木が入団するまでに活躍していた“右の大砲”を振り返ると、2000年代のカープ低迷期に4番として君臨していた栗原健太(中日コーチ)が思い出される。

 ここでは栗原健太の獲得秘話を、長年カープスカウトとして活躍した故・備前喜夫氏が以前本誌に語ってくれたエピソードと共に改めて振り返っていく。

2000年代後半、低迷するカープの4番として活躍した栗原健太(現中日コーチ)

◆圧倒的なパワーが魅力。『江藤二世』として期待されていた

 「生まれたときの体重が4500gもあって、健康で太く長く育ってほしいという想いを込めて『健太』という名前を付けました」と、お母さんの順子さんが教えてくれたことを覚えています。

 『健太』とは2000年に日大山形高校からドラフト3位で入団した栗原健太のことです。

 私が初めて彼を見たのは高校3年生の夏の甲子園予選だったと思います。2年生の頃から彼に注目していた当時の東北地区担当・苑田スカウトから『日大山形高に右中間にも大きな打球が打てる選手がいる』という話を聞いて山形まで見に行きました。

 カープは当時、江藤智(元広島・巨人など)や金本知憲(元広島・阪神)といった長距離バッターの後継者が育っておらず、その素質を持った選手を早く獲得しなければいけませんでした。そういう中で白羽の矢が立ったのが栗原でした。

 私たちスカウトは選手のバッティングを見ればこの選手が長距離バッター向きなのか、それとも中距離バッターなのかわかります。栗原のバッティングを見たときの印象は、スイングスピードもさることながら長距離バッター特有の「大きなスイング」をしているというものでした。球を遠くに飛ばすという技術は教えられてできるものではなく、生まれ持った才能ですが、栗原にもその才能を強く感じました。

 栗原の魅力は何と言ってもその圧倒的なパワーにあります。

 握力は左右とも70kg以上でベンチプレス120kg、スクワット330kgと聞きましたから、高校野球界ではトップクラスの数値です。そのパワーに加え、あのスイングですから何度もバックスクリーンへぶつけたり場外へ打球を飛ばすことができたのでしょう。しかし、あまりにも場外へ打球を飛ばすので「そんなに打たなくてもいいじゃないか」と言われたこともあるようです。

 打球の質に関して言えば、金本のように力強いライナー性の打球ではなく、江藤のような大きな放物線を描く滞空時間の長い打球でした。ですから、どちらかというとスラッガーではなくホームランアーチストと呼ばれるタイプでしょう。そういうことをふまえると、彼が入団当時に『江藤二世』と呼ばれたことにもうなずけます。

 ただ、まだ高校生ということもあり荒削りな部分もありました。しかし、それはプロに入って修正すればいいことですし、彼にはそれ以上に、限りなく大きな可能性を感じたので指名することを決めました。

 栗原と直接話をしたのは広島で行われた新入団発表のときです。そのときはまだ緊張していたせいかあまり話をしませんでしたが、素直で野球一筋でやってくれそうだなという印象を受けました。また、お母さんから実家が焼肉店を経営しているということを聞いたので、それでこんなに身体が大きくなったんだなと思いましたね。