3年連続でBクラスに終わったものの、今季のカープで目立ったのは若い力の躍動。小園海斗、栗林良吏、林晃汰などが一軍で大きな飛躍を果たした。

 ここでは、未来のカープを支えるキーマンたちを発掘した担当スカウトに獲得の裏側を聞いた。今回は、新人記録に並ぶ37セーブをあげた栗林良吏の獲得エピソード。担当した松本有史スカウトは、「大卒で指名しなくてよかった」と振り返ったが、その理由とは。

◆大学→社会人で成功した一番の代表作となる投手

プロ1年目の今季、クローザーとして大車輪の活躍をした栗林良吏投手。

<栗林良吏獲得秘話(担当:松本スカウト)>

 今や日本を代表するクローザーに成長した栗林ですが、高校までは存在を知りませんでした。『名城大の1年に球の速い投手がいる』という情報を入手し、見に行ったのがきっかけです。

 1年の頃は真っ直ぐが速いだけの投手でしたが、新しく就任した元中日の山内壮馬コーチから、投手としての心構え、投球の組み立て、練習内容などの指導を受けたことで投手として大きく成長を遂げていきました。

 大学日本代表にも選ばれ、4年間で32勝をあげたことで、カープもドラフトで指名を検討しましたが、当時の栗林は3位以下の場合は社会人のトヨタ自動車に入ることが決まっていました。2位指名で、同じ大卒の島内颯太郎(九州共立大)と迷った挙句、島内を獲得することになりました。

 ただ、社会人での栗林の成長を見て、この時指名しなくて良かったと思いましたね。トヨタ自動車で元プロ捕手の細山田武史と出会い、カーブとフォークを磨いたことで、格段にレベルが向上しました。栗林の代名詞となっているフォークですが、社会人の最初の頃は、腕が振れず、ただ投げているだけでした。

 また、投げ方も今とは違い横振りでした。その投げる角度を今のように縦振りに変えたことで、真っ直ぐも変化球も抜群にキレが良くなりました。大学から社会人に行き成功した一番の代表作ではないでしょうか。

 大学、社会人と気持ちを前面に出して打者に向かっていく姿が印象に残っていたので、球団には「今は先発ですが抑えでも使えます」と進言しました。2020年のドラフトは、栗林を1位で指名することは随分前から決まっていました。ただ秘密事項だったので栗林本人にも1位指名を伝えず、他球団の動向を探る日々が続きました。

 競合を予想していた球団が別の選手を指名する可能性が高くなったため、当日の朝、1位指名を公言し、見事単独で獲得することができました。指名後は、本人はもちろん監督にも「言いたかったのですが言えませんでした」とお詫びしたのを覚えています。

 シーズン中は何度かLINEでやりとりをしています。先日も新記録達成のお祝いを伝えると『奢らずに一つずつ記録を伸ばしていきます』と返信がありました。感謝を忘れず謙虚。その人間性も栗林が愛される理由でしょうね。

●栗林良吏(くりばやし りょうじ)
1996年7月9日生(25歳)/愛知県出身/178cm・83kg/
右投右打/投手/名城大-トヨタ自動車-広島
【2021年成績】53試合 0勝1敗37セーブ 防御率0.86 52.1回 81奪三振 

●松本有史(まつもと ともふみ) 
1977年5月1日生、広島県出身。崇徳高-亜細亜大を経て、1999年ドラフト7位でカープに入団。現役時代は長打が魅力の内野手として活躍した。2005年限りで現役引退すると、翌2006年からスカウトに転身。現在は主に東海地区を担当し、堂林翔太、菊池涼介、九里亜蓮らの獲得に成功した。今年のドラフトでは、中村健人(ドラフト3位)、田村俊介(ドラフト4位)などを担当した。