“能動性”が勝負の分かれ目

「開幕をするための準備なのですが、それが見えないので選手は大変だと思います。今は、選手個々が考えてやることも大事です。僕たちがいろいろ言うのは、(開幕が見えてから)その次の段階だと思います」

 コーチになって、指示を出す立場になったが、“選手には指示待ちになって欲しくない”というのが彼の考えである。盗塁に関しても、そうである。

「もちろん足の速さも必要ですが、ピッチャーの癖やタイミングを研究しておく必要はあります。投手のセットポジションへの入り方やサインの見方も大きな材料になります。それに加えて、次の塁に行くと決めたら行くという気持ちの強さや度胸です」

 ベンチからのサインが出てスタートを切ることに違いないが、あらかじめ選手が自分からスタートを切る気持ちになっていることが重要なのである。

「サインが出たときに、選手がスタートを切る根拠を持っているかどうかでコンマ何秒か変わってきます。常に状況を観察していると、盗塁のサインの根拠がわかり、思い切ったスタートが切れると思います」

 指示待ちでなく、選手が能動的に動く。これができる集団であることは、2016年からの3連覇で証明済みである。廣瀬はアシストこそ惜しまないが、選手個々の考えや行動を最大限に尊重していく。

 世の中はもちろん、スポーツ界も苦しい状況にある。だからこそ、自分で考えて行動する力が問われてくる。プレーボールの歓声はまだ響かないが、野球はやはり我々に多くのことを考えさせてくれる。

<著者プロフィール>
坂上俊次(さかうえしゅんじ)。中国放送アナウンサー。 
1975年12月21日生。1999年に株式会社中国放送へ入社し、カープ戦の実況中継を担当。著書に『カープ魂 33の人生訓』、『惚れる力』(サンフィールド)、『優勝請負人』、『優勝請負人2』(本分社)があり、『優勝請負人』は、第5回広島本大賞を受賞。現在『広島アスリートマガジン』、『デイリースポーツ広島版』で連載を持っている。

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