現役引退表明から約3カ月後、アメリカの自宅でPCを通して届けられたK.ジョンソンの言葉。それは6年間在籍したカープ、そして家族と共に暮らした広島への思いに溢れたものだった。引退の決断した理由、カープでの思い出、石原慶幸・西村公良への思い、そして今のカープへのメッセージ……。1時間を超える独占取材で、最強助っ人左腕が思いの限りを、引退後、初めて告白した。(全5回のうち4回目・取材は11月上旬)

通訳の西村公良氏はK.ジョンソンの日本での生活を支える良きパートナーだった(写真は2015年9月10日のお立ち台)。

◆成功する秘訣はオープンマインドでいること

3回目から続く
─2016年に沢村賞を獲得し、外国人投手では球団最多の57勝など数々の記録を残されました。日本で成功を収めるために心がけていたことはありますか?

「ひとつ確実なのは“オープンマインドでいた”ことです。今でも覚えているのは来日1年目の春季キャンプ。そこで行われていた練習は、それまで経験してきた春のキャンプとは全く違うものでした。ストレッチのメニューやキャッチボールのやり方も含めてです。そしてブルペンでは、初日から100球を投げ込む投手を見て驚いたものです。ただ、そこで大事なのは“違い”を受け入れることです。違うことを怖がらずに、まずは挑戦する気持ちを持って、取り入れたほうが良いものがあれば、取り込んできました。この何事にもトライしてみる気持ちがないと成功は難しいのではないかと思います。また、私生活では、日本にいた6年間、家族でいろんなところに出かけました。言葉が分からない、暮らしのスタイルが違うからと家にいて何もしないのでは良い気分転換はできません。行きたいところがあれば、自分たちの力で行き、その街の雰囲気にふれてきました。球場でも私生活でもオープンマインドでいることが一番大切だと思いますね」

─6年間、通訳を担当された西村(公良・球団通訳)さんの存在も大きかったのではないでしょうか?

「キミはお兄ちゃんのような存在です。いろんなことを2人で経験してきたので、個人通訳と呼んでもいいくらいです(笑)。自分たち家族のことを考え、どんな時もサポートしてくれました。長女が生まれたての頃、遠征先で、ミルクを冷やすドライアイスが急遽必要になったことがありました。その時、キミが探し回って持ってきてくれました。あの日のことはよく覚えています。また、球場では、試合前に必ず一緒にランニングをしてくれました。外野を走りながら、いろんな笑い話をしたり、愚痴を聞いてくれました。今では良い思い出です。話し出したらキリがないほど、キミとはたくさんの思い出があります。それほど自分にとってかけがえのない存在でした」(続く)

取材協力/J SPORTS

◆Kris Johnson(クリス・ジョンソン)
1984年10月14日生・アメリカ出身。37歳。ウィチタ州大-パイレーツ-ツインズ-広島。2015年シーズンにカープに入団。来日初登板で1安打無死球の準完全試合を達成。以降も先発ローテの柱として登板を重ね、この年14勝。防御率1.85で最優秀防御率のタイトルを獲得した。2年目の2016年は開幕投手を務め、自己最多の15勝。外国人では2人目となる沢村賞を獲得。シーズン後には3年契約を結んだ。2017年は6勝に終わるも、2018年からは2年連続で2桁勝利を記録。2020年は0勝に終わったが、6年間で球団の外国人投手では最多となる通算57勝をあげ、左腕エースとして活躍した。2020年シーズンオフにカープを退団。2021年8月18日に球団を通して現役引退が発表された。