スポーツジャーナリストの二宮清純が、ホットなスポーツの話題やプロ野球レジェンドの歴史などを絡め、独特の切り口で今のカープを伝えていく「二宮清純の追球カープ」。広島アスリートマガジンアプリ内にて公開していたコラムをWEBサイト上でも公開スタート!

「女優だって目立たんことには(演技が)上手にならんでしょう」。そう語ったのは今は亡き仰木彬だ。近鉄とオリックスで監督を務め、野茂英雄やイチローらを育てた名将である。

 先のコメントは今から28年前のものだ。仰木はオリックスの監督に就任するなり、鈴木一朗の登録名をカタカナのイチローに変えた。「なぜイチローなのか?」との私の質問に対する答えである。

 現役、コーチ、監督を含めパ・リーグ一筋の仰木には「目立たんと、全て話題はセ・リーグのチームに持っていかれる」との危機感があった。「セ・リーグのチームの監督はマスコミに無視されることの恐ろしさがわかっていない」とも語っていた。

 昨オフの話題はリーグ5位ながら、北海道日本ハムがひとり占めした。ビッグボスこと新庄剛志監督の誕生。東京五輪で金メダルを獲得した日本代表監督・稲葉篤紀のGM就任。それと入れ替わるように前監督の栗山英樹が侍ジャパンの指揮を執ることが決まった。2023年のWBCでは、大谷翔平(エンゼルス)との師弟コンビが実現するか否かに注目が集まっている。このように、日ハムは間違いなく“ストーブリーグ”の主役だった。

 江夏豊が南海からカープに移籍した1978年、大阪のスポーツ紙に「山本浩二と“主役争い”」との記事が載った。山本は75年の初優勝でセ・リーグMVPに輝き、“ミスター赤ヘル”の片鱗を見せ始めていたが、まだ全国的な知名度では江夏の方が上だった。

 後年、2人の関係について昨年11月に他界した古葉竹識に聞いたことがある。「江夏が入ったことによってチームに緊張感が生まれた。何よりマスコミの注目度が高くなった。こうなると選手は手を抜けないんですよ。こちらとして、あれ(報道)はありがたかったですね」。それが古葉の感想だった。

 佐々岡カープにも、全国のメディアが注目するような話題が欲しい。キャンプが始まる前、仰木はネタの仕込みに余念がなかった。「目立たんことには上手にならん」とは、けだし名言である。

(広島アスリートアプリにて2022年1月3日掲載)

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二宮清純(にのみや せいじゅん)
1960年、愛媛県生まれ。明治大学大学院博士前期課程修了。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。広島大学特別招聘教授。ちゅうごく5県プロスポーツネットワーク 統括マネージャー。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグなど国内外で幅広い取材活動を展開。『広島カープ 最強のベストナイン』(光文社新書)などプロ野球に関する著書多数。ウェブマガジン「SPORTS COMMUNICATIONS」も主宰する。