スポーツジャーナリストの二宮清純が、ホットなスポーツの話題やプロ野球レジェンドの歴史などを絡め、独特の切り口で今のカープを伝えていく「二宮清純の追球カープ」。広島アスリートマガジンアプリ内にて公開していたコラムをWEBサイト上でも公開スタート!

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 カープは2月1日から13日まで宮崎県日南市、15日から28日まで沖縄市というスケジュールで春季キャンプを張る。日南キャンプは今年で60周年だ。

 過日、川口和久に日南キャンプの思い出について聞くと、休日での釣りをあげていた。

「大野豊さんたちと皆で行って、メジナやオナガをよく釣りましたね」

 釣ったサカナは行き付けの料理屋に持ち込み、そこでさばいてもらったという。

 常連客にお裾分けすれば、話が弾み、距離も縮まる。カープの選手たちにとって、まさに日南は第二の故郷だったのだ。

 釣り、と聞いて思い出したのが盗塁王13回の福本豊だ。シーズン中でも試合後に釣りに出かけたと語っていた。すなわち“夜釣り”である。

 主にクロダイやタチウオが釣れたというが、別に誰かと釣果を競っていたというわけではない。ひとり波止場にたたずみ、暗い海に釣り糸を垂れるのがいい、というのだ。

「野球選手はひとりになる時間が少ない。誰にも邪魔されずにボーッとする時間も必要なんよ」

 いわば精神のクールダウンである。自分に向き合うには夜釣りが一番いいというのだ。

 とはいえ、ただボーっとしていたわけではない。「かかった時に手がブルブルッとくる。あの感覚はたまらんね。サカナとの駆け引きは、盗塁におけるピッチャーとの駆け引きにも通じるものがあったね」。その結果が前人未踏の通算1065盗塁につながったわけである。

 精神のクールダウンに加え、駆け引きも磨くことのできる釣りは、コロナ下にあって、お薦めのレジャーと言えるかもしれない。

(広島アスリートアプリにて2022年1月17日掲載)

毎週月曜日に広島アスリートアプリにてコラム「追球カープ」を連載中。
※一部有料コンテンツ

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二宮清純(にのみや せいじゅん)
1960年、愛媛県生まれ。明治大学大学院博士前期課程修了。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。広島大学特別招聘教授。ちゅうごく5県プロスポーツネットワーク 統括マネージャー。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグなど国内外で幅広い取材活動を展開。『広島カープ 最強のベストナイン』(光文社新書)などプロ野球に関する著書多数。ウェブマガジン「SPORTS COMMUNICATIONS」も主宰する。