カープの一軍春季キャンプが行われている天福球場(宮崎県日南市)

 のっけから私事で恐縮だが、筆者はフリーランスのライターとして、2012年から2020年までの9年間、毎年プロ野球春季キャンプを現地取材してきた。

 コロナ禍により選手の個別取材がほぼ「リモート化」されてしまい、ここ2年間は現地に足を運べていないのがなんとも残念ではあるが、カープの春季キャンプ地でもある宮崎県の天福球場にも、毎年のように取材に訪れていた。

 主に宮崎や沖縄で行われるプロ野球春季キャンプだが、球団ごとにキャンプの様子には独自の「色」がある。

 では、カープ春季キャンプの「色」とは何か?

 私が初めて天福球場を訪れたのは、今から11年前の2012年。率直な印象は「遠いな……」だった。

 宮崎空港から通称・フェニックスロードを車でひた走る事、約1時間。宮崎県日南市天福の住宅街を抜けた先に、天福球場はある。

 両翼99メートル、センタ―122メートル。球場の後ろには、豊かな緑が生い茂る。完成は1962年で、翌1963年から60年間にわたりカープが春季キャンプ地として利用している。

 施設の規模感でいえば、同じ宮崎県で春季キャンプを行っている巨人のサンマリンスタジアム宮崎や、ソフトバンクの生目の杜運動公園と比較すると確かに見劣りはする。

 ただ、宮崎市内から天福に近づくに従って増えていく「広島東洋カープ」のノボリの数が、いかにカープが天福の人々に愛されているかを物語っているようにも感じた。

 利便性は、確かに悪い。

 以前、キャンプ中の野村祐輔に「練習後はどこかで羽を伸ばしたりするのか?」という質問をした際には「ホテルにこもってます。だって、繁華街まで1時間もかかるんですよ?」と笑いながら答えてくれたことを思い出す。

 とはいえ、良い意味で「野球に集中できる環境」が、12球団屈指の練習量を誇るカープの伝統を紡いできたとも言える。

 また、ファン目線で見るとカープの春季キャンプには大きな魅力もある。

 それが、「選手との距離感」だ。

 スタンドからグラウンドまでの距離が近いため、観客の声が届きやすい。練習中に観客席からファンが声をかけると、選手がそれに応えてくれることも決して珍しくない。

 私も実際に菊地涼介や当時在籍していた丸佳浩(巨人)といった主力選手が、スタンドにいる子供と言葉を交わしている姿を何度も見たことがある。

 室内練習場とブルペンもメイン球場に隣接しているため、たとえば野手の練習を見た後、すぐにブルペンに移動して投手の練習を見ることもできる。

 また、選手の導線もファンに近いため、移動中の選手が即席のサイン会を行ってくれることも多々ある。

 3年前にキャンプ取材に行った際には、練習後に鈴木誠也が球場前に待機していた子供たちに長い時間をかけてサインをする光景も目にした。

「選手とのふれあい」はキャンプ見学の醍醐味だが、12球団を見渡してもその「距離感」が一番近いのは、やはりカープだろう。

 繁華街が遠いとはいえ、キャンプ地で楽しみたい「食事」も充実している。駐車場の出店では宮崎の「ご当地メシ」を堪能できるし、天福球場からほど近い「レストラン喫茶 五番街」の名物・鉄板焼きそばは日南に行ったらぜひ味わっていただきたい絶品メシだ。

 なにより、日南・天福という町自体が、カープを愛し、カープを支え続けているという雰囲気がそこにはある。

 ここ2年間ほどはコロナ禍もあり、キャンプ地での観客動員にも制限がかけられている。今年は2年ぶりに「有観客」での開催となったものの、オミクロン株が猛威を振るう現状を考えると、まだまだ「平時」に戻ったとは言えない。

 活気溢れる天福球場が再びみられるのは、もう少し先になるだろう。

 それでも、コロナ禍が終息し、再び「いつもの春季キャンプ」が戻ってきたその日には、私もまた、空港から車を1時間走らせ、天福球場に取材に行きたい。

 他球団とは少し違う、「天福ならではの温かい雰囲気」を、また味わいたいからだ。

文/花田雪