今季から選手会長に就任した大瀬良大地。カープのエース、投手キャプテンとして投手陣を牽引してきた男が、新たな肩書きを背負って新シーズンを迎える。前田健太、黒田博樹ら歴代エースの背中を見て育った男が、生まれ変わりつつあるカープの“中心”として、V奪還へ挑む。

4年連続開幕投手を目指し、日南キャンプで順調な調整を重ねる大瀬良大地。

◆黒田、マエケンから受け継いだ“伝統”を若い選手へ継承する

 カープのエースに、またひとつ肩書が増えた――。

 昨季取得した国内FA権を行使せず、3年契約でチームに残留した大瀬良大地が、今季から選手会長に就任した。

 投手が選手会長を務めるのは2005年〜2006年の黒田博樹以来、チームでは16年ぶり。過去には北別府学、佐々岡真司ら歴代エースも務めた大役を託されることになる。

 昨季は投手キャプテンに就任し、3年連続で開幕投手も務めた。シーズン中には離脱も経験したが、終わってみれば2年ぶりの2ケタ勝利&規定投球回に到達。クオリティスタート(QS)20回はセ・リーグトップタイで、QS率87%は同単独トップと抜群の安定感を見せた。

 エースと呼ばれるようになってから数年が経つが、『選手会長就任』は別の意味を持つ。プレーはもちろん、今季の大瀬良にはカープの選手の模範になり、チームを牽引していく役割が求められるはずだ。

 それはまた、大瀬良にその大役を担うだけの〝素養〟と〝経験〟があると認められたことも意味する。

 2013年ドラフト1位でカープに入団した大瀬良は、1年目から10勝を挙げて新人王を獲得。早くから“次期エース候補”として大きな期待を背負っていた。しかし、2年目以降は調子を落とし、約2年間リリーフを経験。順風満帆のプロ生活スタートから、いきなり挫折を味わった。

 それでも4年目の2017年に先発に復帰して10勝を挙げると、そこから“エース”への階段を歩み始めることになる。

 2018年には最多勝利のタイトルを獲得してチームの3連覇に貢献。黒田博樹、前田健太と受け継がれてきた“エース”の座を確固たるものとした。

 翌年の春季キャンプで、大瀬良本人に「エースとは?」と質問をぶつけたことがある。その時に返ってきた答えがこうだ。

「高い水準の成績を何年も残し続けることのできる投手だと思います。僕はまだ、そのレベルではありません。もちろん、そこを目指してこれからもやっていきたいですけど、マエケンさんや黒田さんと一緒にプレーする中で『あれだけの結果を残す裏には、ものすごい努力がある』ということも実感しています」

 前田健太と黒田博樹。ふたりの“エース”の背中を見ながらプロ生活を過ごし、ふたりが去ったあとは、自らが“エース”としてチームを牽引し続けてきた。だからこそ、前任の田中広輔は、今季の選手会長に大瀬良を指名したのだろう。

 カープは今、過渡期にある。リーグ3連覇に貢献した主力選手たちは“ベテラン”と呼ばれる域に達し、3連覇を知らない森下暢仁、栗林良吏、小園海斗といった若い世代が台頭してきた。

 新選手会長・大瀬良大地には、世代交代を進めるチームの柱、〝パイプ役〟・〝潤滑油〟としての役割が求められるはずだ。

 30歳となり、プロでのキャリアも着実に積んできた。暗黒期のカープも、強いカープも知っている。球団史に残るエースの姿から、“エースとは何か”“チームを引っ張るとは何か”も理解している。

 3年契約を結び、事実上の『生涯カープ宣言』をした男が、生まれ変わりつつあるチームの旗手となるのは当然の流れだったのかもしれない。

 黒田がそうだったように、〝ただ、投げるだけ〟ではなく、その投球で、野球に向き合う姿勢で、若い選手を鼓舞し、ベテランを支えなければならない。

 大瀬良自身、1月には森下ら若手投手とともに自主トレを行い、自らのトレーニング、野球観を後輩たちに伝授するなど、早くもリーダーシップを発揮。残留を発表した会見で、大瀬良はこう語っている。
「カープの伝統であったり、いいところというのは、後輩たちに受け継いでいくものだと思っています」

 まさに、有言実行。投手キャプテン、選手会長と年々“肩書き”が増えているが、それを重圧ではなく力に変え、カープの伝統を受け継ぐ“語り部”の役割を担う。

 もちろん、自身もさらなる高みを目指すはずだ。『カープのエース』として、4年ぶりのリーグ制覇、悲願の日本一へ――。新選手会長・大瀬良大地のシーズンがもうすぐ始まる。

文/花田雪