スポーツジャーナリストの二宮清純が、ホットなスポーツの話題やプロ野球レジェンドの歴史などを絡め、独特の切り口で今のカープを伝えていく「二宮清純の追球カープ」。広島アスリートマガジンアプリ内にて公開していたコラムをWEBサイト上でも公開スタート!

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 クローザーには長期にわたって活躍するものもいれば、“短命”に終わるものもいる。昨季の新人王・栗林良吏には、ぜひ前者であって欲しい。

 栗林が今季のテーマに制球力向上を掲げているのは大正解である。昨季、打たれたヒットは、わずか23本(52回3分の1)。上々の内容だが、与四死球数が29とヒット数を上回った。これを改善する狙いがあり、昨オフから下半身の強化に取り組んだ。下半身が強くなればフォームも安定するという寸法だ。

 日米通算381セーブの“大魔神”佐々木主浩に、「クローザーにとって一番重要な要素は?」と訊ねたことがある。返ってきた言葉は「球数」だった。要するに「無駄球を投げない」ということである。

 佐々木といえばフォークボールにばかり注目が集まるが、ストレートのコントロールは絶妙だった。

 そこで調べてみた。佐々木が打たれたヒット数は、日米通算567本。それに対し与四死球数は敬遠も含め326。通算851イニングだから、1イニング平均の与四死球数は0.38。昨季の栗林は0.55だった。

 横浜で38年ぶりのリーグ優勝、日本一を果たした98年は56イニングで、14の四死球しか与えていなかった。

 ストレート主体の配球で早めに追い込み、最後はボール球のフォークボール。打者が“入り球”の真っすぐに狙いを絞っていると察知すると、初球からフォークボールを投じた。何よりも四球を嫌ったのは球数が増えた結果、疲労を翌日に残すことだった。

 巨人の長嶋茂雄監督は、「横浜とのゲームは8回までだ」と語っていた。佐々木が出てきたら、もうお手上げというわけである。元木大介(現一軍ヘッド兼オフェンスチーフコーチ)から「8回2死で7番の僕が打席に向かう時、本当にベンチからいないことがありました」という笑うに笑えない話を聞いたことがある。栗林にも、そんな存在になってもらいたい。

(広島アスリートアプリにて2022年2月21日掲載)

第1、第3月曜日に広島アスリートアプリにてコラム「追球カープ」を連載中。
※一部有料コンテンツ

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二宮清純(にのみや せいじゅん)
1960年、愛媛県生まれ。明治大学大学院博士前期課程修了。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。広島大学特別招聘教授。ちゅうごく5県プロスポーツネットワーク 統括マネージャー。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグなど国内外で幅広い取材活動を展開。『広島カープ 最強のベストナイン』(光文社新書)などプロ野球に関する著書多数。ウェブマガジン「SPORTS COMMUNICATIONS」も主宰する。