ゴールデンウィーク、今年も真っ赤なスタンドを沸かせるのは、カープが育て上げた「叩き上げ」の選手たちである。チームの根幹は、「スカウティング」と「育成」。即戦力ルーキーが躍動し、鍛え上げられた下位指名選手も力強い全力プレーを見せる。

2020年新人王の森下暢仁投手(右)と2021年新人王の栗林良吏投手(左)。いずれも単独1位指名で獲得した投手だ。

 そんなカープの「スカウティング」について、3月30日に発売された新刊『眼力 カープスカウト 時代を貫く惚れる力』(サンフィールド)の著者である坂上俊次氏(中国放送)が、“流しのブルペンキャッチャー”としてドラフト候補選手の球を受けながら取材するスポーツジャーナリスト安倍昌彦氏とカープドラフト、スカウトについて対談を展開した。

 連載5回目の今回は、2019年ドラフトをベースに、一本釣りと競合について2人が熱く語る。

◆ウチだけが指名して獲得した達成感

坂上「近年は森下暢仁投手(明治大・2019年ドラフト1位)、栗林良吏投手(トヨタ自動車・2020年ドラフト1位)が続くなど“一本釣りのカープ”と感じさせるドラフトが続いていますね。今回私も書籍「眼力」の中で、競合して“抽選で引き当てる”のと、単独指名して“一本釣り”するのではどちらが快感なのか?をカープスカウトの方々に聞いたところ、ほとんどのスカウトが『そりゃ単独指名の一本釣りですよ』ということでした。この点について安倍さんはどう思われますか?」

安倍「おそらく、ほとんどのスカウトが未だに、1年の成果がくじ引きで、成果が出てしまうことの理不尽さを感じているのかもしれないですね。ドラフト制度というのはプロ野球界に定着しており、今の選手たちは生まれた時からドラフト制度がありますし、何の違和感もないと思います。やはり探して、見出して、追いかけて、“この選手だ!”と獲得するスカウトの人たちにとっては、偶然性が獲得につながってしまうということの悔しさをものすごく感じているはずです。それを踏まえていけば、みんなが知っている良い選手なのですが、ウチだけが指名して獲得したんだということの達成感でしょうね。これこそスカウトの仕事だということだと思いますね」

坂上「まさに、そういうことをスカウトの方々は言っていました。言葉を借りると、『あなたという選手を、一番良く見ていたのは我々です。一番あなたの良さを高く評価していたのは我々です』というメッセージが伝わったということになるので、単独指名の喜びはそこだと言われていましたね。ただ、すごいと思ったのが、森下暢仁投手を単独で獲れたことです。あの年は高校生のビックネームでも、佐々木朗希投手(ロッテ)、奥川恭伸投手(ヤクルト)、石川昂弥選手(中日)がいましたね」

安倍「プロのスカウトの方がよくおっしゃるのですが、大学生も社会人の選手も1位で欲しい選手がいるんですが、高校生で同じレベルの選手がいると、フレッシュな方を獲る、と言うんですよね。やはり“18歳というアドバンテージ”でしょうね。大学生や社会人は22歳、24歳だったりするわけなので。そういう伸びしろを考えて若い選手にいくということもありますよね。あの年は佐々木朗希投手がとっても謎めいた選手だったんです。甲子園など表舞台に出てきていない、だけど160キロを投げた投手。でも佐々木朗希の正体は何なんだということを、スカウトは最後の最後まで追いかけていました」

坂上「一方で、大学1年よりは2年。2年よりは3年。3年よりは4年と階段を着実に、ステップを踏むようにして成長していったのが森下投手ですよね」

安倍「森下投手は、良いピッチャーだとみんな認めていますけど、やはり音もなく成長して、いつの間にか素晴らしい投手になっているんです。それを認めつつも、プロは若さを好む傾向もあるので、4年間じっくり見た森下と、1年半しか見ていないですが、未だに謎めいたミステリアスな存在である佐々木、奥川、石川などが対抗馬が出てくると高校生に流れるんでしょうね」

(第6回に続く)

対談を行った安倍昌彦氏(写真右)と坂上俊次氏(写真左)