プロ3年目を迎える森下暢仁が、『エース』への階段を順調に駆け上がっている。佐々岡真司、前田健太から受け継いだ背番号18を背負い、年々凄みを増す投球の背景には、『エース』を目指す強い意志と、つねに上を目指し続けるあくなき向上心があった。

背番号18を背負い、プロ1年目から活躍を続ける森下暢仁(今季の春季キャンプで撮影)

◆3年間でエースに。森下が語った強い決意

「3年間で結果を残して、チームのエースと呼ばれる投手になりたいです」

 昨季終了後、別媒体のインタビューで森下暢仁は確かにこう口にした。

 リモート取材を行うPC画面のこちら側で、私は思わず「言った!」と声をあげそうになった。

 ドラフト1位でプロ入りし、1年目から10勝を挙げて新人王を獲得。2年目の昨季は勝ち星こそ8にとどまったが、東京五輪では侍ジャパンの一員として、金メダルを獲得した決勝戦に先発登板。3年目の今季も当然のように開幕ローテーションを任され、安定したピッチングを見せている。

 順調なプロ生活を送る森下が『エース』と口にすることは、決しておかしなことではない。それでも私がこの言葉に反応してしまったのは、こんな理由があるからだ。

 前田健太のメジャー移籍後も、カープには『エース』と呼ばれるような投手は現れている。野村祐輔と大瀬良大地だ。

 しかし、過去にこの2投手を取材した際に感じたのは、『エース』と呼ばれることに対して一定の距離感を持っていたことだ。

 野村、大瀬良に共通したのは「“エース”については意識しない」「目指すのではなく、結果的に周囲から“エース”と呼ばれるような投球を見せたい」という意識だ。

 もちろん、どこまでが本心かは分からない。ただ、少なくとも対外的には『エース』と呼ばれることに強い意識は持たず、あくまでも〝自分の投球を追求する〟というのがこの2人に共通した意識だった。黒田博樹や前田健太といった『絶対的エース』と同じユニホームに袖を通し、その偉大さを肌で感じていることも影響しているのかもしれない。

 しかし、森下は違う。プロ3年目の彼は、黒田も前田健太も、良い意味で〝知らない〟のだ。だからこそ、こちらから話題を振る前に、自ら『エース』を意識する言葉を発したのかもしれない。

 どちらがいい、という話ではない。ただ、野村、大瀬良といった先輩投手とは明らかに違う明確な意思を、そこに感じた。

 思えば、プロ入り当初から森下は『エース』と呼ばれる宿命を課せられていたのかもしれない。その証左が、ルーキーイヤーから背負う『背番号18』だ。(後編に続く)