4年ぶりの優勝を目指す上で、栄光と葛藤を知る男たちの経験は必要不可欠。カープには勝者のメンタリティを持つ経験者たちが数多くいる。今季、復活を懸け、鍛錬を重ねている選手の現在地に迫る。

今季、10年目のシーズンを迎える上本崇司

◆課題の打撃を進化させた〝シンプル思考〟

 今季は、背番号0の存在感をより一層大きく感じる。プロ初の開幕スタメンを果たすと、以降も着実に結果を残し、スタメンに定着。成長著しい若手を押しのけ、レギュラーの座をつかみとりつつある。特に目立つのは打撃面の進化だ。5月中旬で安打数と打点は過去9年間のシーズン最多を更新。出塁率はチームトップクラスの数字を誇っていた。好調の理由を上本崇司はこう分析する。

「気持ちの面で大人になれたのが大きいかもしれません。若い頃は打席に立つ機会も少なかったので、〝打たないとやばい〟〝振らないとやばい〟という焦りしかありませんでした。ただ、打席を重ねるうちに、考え方が変わり、シンプルに考えられるようになりました」

 今季、2ストライクに追い込まれるまでは打つと決めた球しか振らないと決めている。そして追い込まれると、四球を取れれば良いと切り替える。そのシンプルなアプローチにより、打席でやるべきことが明確になり、前述の出塁率の高さにもつながっている。また、昨年までどこでも守れるユーティリティープレーヤーとして活躍してきた実績が、上本の起用の幅を広げている。センター、セカンド、サード。チーム状況に合わせ、試合ごとに守備位置が変わる難しい役回りを淡々とこなしている。

「昨季まで、どこでも守れるように練習していたので、試合前のルーティンを含めて、変えていることは特にありません。これまでと同じように、いつも通り準備することを心がけています」

 プロ10年目にしてようやくチャンスをつかみ取りつつあるように感じるが、上本自身は冷静に現状を見据えている。

「今年は開幕前から、〝無欲でいる〟ことを心がけてきました。僕自身、特別取り柄がない選手だと思っているので、チームから求められることに応えていくことだけを考えています。とにかく与えられた場所でしっかり仕事をしようという思いだけ。欲を出さず、〝為すべきことを為す〟というスタンスでプレーしています」

 野球に限らず、どんな小さなことでも、コツコツと求められることをこなしていけば、その積み重ねはいつか大きな果実となる。今季の上本の活躍はそれを証明しているかのようだ。それはシーズン前の下馬評を覆し、粘り強い野球で快進撃を続けるチームの姿と重なりもする。これまでの9年間は下ごしらえ。ユーティリティープレーヤーから脱皮し、10年目の今季、大きな変革の時を迎えつつある上本の活躍から目が離せない。