サンフレッチェ広島に12年間在籍し、3度のJ1制覇に貢献した佐藤寿人氏の『サンクスセレモニー』が、5月28日の名古屋戦(エディオンスタジアム広島)後に行われた。

 そのセレモニーから数日後……、本誌の独占取材に佐藤氏が語った“言葉”を届ける。

 現役引退後に初めて立った広島のピッチで、佐藤氏の胸をよぎった思いとはーー。

セレモニー終了後、選手たちから贈られたサイン入りユニホームを着て場内をラウンドした佐藤氏。

◆「ただいま」にはまだ早い。胸に秘めたクラブへの思い

 実はあの場所に立つまで、どんな言葉を届けるか考えていませんでした。考え始めるととんでもない量になりそうだったので、ピッチに立った時に自分の中に湧いてきた感情を言葉にしようと決めていました。

 ただ、登場前にスタジアムの電光掲示板に流れた映像を見るうちに、こみ上げてくるものがあり、我慢していたものが溢れるのを止めることができませんでした。

 スピーチ中は、一緒に戦ってくれたファン・サポーターのみなさんへの感謝の思いが胸の中に溢れ、それを素直に言葉にさせていただきました。

 チームの調子が良い時だけでなく、悪い時も支えてくださったからこそ、サンフレッチェの“今”があると思っています。 また、試合に勝ってセレモニーをしようという気持ちで選手たちがプレーしていたと聞き、サンフレッチェの後輩たちにも感謝したいと思います。

 付き合いの長い(野津田)岳人がゴールを決めたこともうれしかったです。セレモニーの日に、広島での7年ぶりのゴールを決めて背番号7。改めて岳人はもっているなと思いましたね(笑)。

 当日サポーター席の前でも伝えたことですが、今は11番をつけてプレーする選手はいませんが、近い将来、11番を身に纏って躍動する選手が出てくるはずです。そして、その選手はあの日のピッチに立っていたと思っています。

 試合中にスタンドを見渡すと、11番のユニホームを纏った人たちがたくさん来てくれていて、その風景を家族と一緒に見れたのも良い思い出です。妻も「幸せだね……」と言っていました。

 「ただいま」の言葉を使わなかったのは、その場で感じたことを声にしただけです。そもそもオファーがなければ戻ってくることはできませんから、またサンフレッチェの力になれるように、今いるこの場所でいろんなことを学び、いつか「おかえり」と言ってもらえるように頑張りたいと思います。

《サンクスセレモニーでのスピーチより抜粋》
「サンフレッチェ広島でプレーできたこと、そして、3度の優勝をみなさんと一緒に勝ち取れたことは、自分のキャリアにとって非常に印象深いものでした。また、2007年・J2降格時もみなさんの支えがあったからこそ、輝かしい結果につながったと思っています。僕だけでなく家族も、みなさんから背中を押してもらい、父親としても感謝の思いで一杯です。名古屋に移籍する時、『行ってきます』の言葉を使いましたが、まだ『ただいま』の言葉は使いません。クラブの一員になった時、その言葉を使いたいと思います」

◆佐藤寿人(さとう ひさと)
1982年3月12日生、埼玉県出身。2005年にサンフレッチェに移籍。3度のリーグ優勝に貢献し2012年にはMVPと得点王を獲得。2020年限りで現役引退。通算のJ1得点数は歴代2位。引退後は指導者・解説者として活動中。