2010年から5年間カープを率い、25年ぶりの優勝への礎を築いた野村謙二郎元監督。この特集では監督を退任した直後に出版された野村氏初の著書『変わるしかなかった』を順次掲載し、その苦闘の日々を改めて振り返る。
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 2011年から若手起用の方針が鮮明になっていったとよく言われる。チームの根幹に「自前の選手を育てていく」という哲学がある以上、僕はそれは当然のことのように思うが、だからといってベテランを冷遇して、無理やり若い選手を使ったという意識はない。僕は光るところのある選手から優先して使っただけのことだ。

 ただ、いかんせん彼らはまだ若い。急激に伸びるときもあれば、突然落ち込むこともある。そのアップダウンも含めてきっちりサポートしていくことが彼らの成長には欠かせない。この年、野手の中でもっとも飛躍したのはやはり丸だろう。

 彼は前年に一軍デビューしプロ初安打を放っていたが、この年は131試合出場、初の規定打席に到達。この年に規定打席に到達したのが丸以外は東出と健太のみということを考えると、一気に中心選手に躍り出たと言っていいほどの活躍である。

 丸のことは以前から注目していた。そもそも僕はスピードのある選手に目が行くのだが、当時打撃コーチだった町田公二郎も「丸はおもしろいですよ」と薦めてきた。この年の彼は春先は3割近く打っていたが、夏場にスランプを経験して最終的には.241。とにかく打撃が安定しなかった。

 ご存じの方もいるだろうが、2013年まで彼の登場曲は中森明菜さんの『DESIRE-情熱』。それは実はこの年の成績に由来している。“まっさかさーまーに堕ちてdesire”―丸にはいつも「調子に乗ってると“まっさかさーまーに堕ちてdesire”―だぞ」と口を酸っぱくして言ってきた。その戒めのためこの曲をテーマソングにさせたのだ。

 さすがに2014年「もう絶対落ちないから変えていいですか?」と言われて変更したが、彼は新井宏昌バッティングコーチの元で広角に打つことを覚えて、さらに打撃が安定した。僕が見てきた5年間の中でも珍しいほど順調に伸びている選手だと思う。