夏の甲子園を目指す2022年広島大会の波乱のスイッチは海田によって入れられた。7月16日の2回戦。春季県大会で敗れているシードの大竹に延長11回、途中出場の1年生・吉田淳之助がレフトオーバーの本塁打を放ってサヨナラ勝ち。そして3回戦では、広、三原のほか、優勝候補と目された広陵と、シード校の敗退が続いた。

波乱の広島大会を制したのは盈進。48年ぶりの甲子園へ臨む。

 昨年の秋季中国大会で優勝し、神宮大会では準優勝。センバツは2回戦で敗れたとはいえ、春季県大会を制し、春の中国大会で準優勝した広陵は、今夏広島大会の優勝候補の筆頭だった。初戦となる2回戦は、昨夏の覇者・広島新庄に延長10回、途中からマスクをかぶった松田啓杜(3年)の適時打でサヨナラ勝ちした。

 最高の勝ち方で臨んだ3回戦。1回表に満塁まで攻めながら得点できなかったその裏。英数学館の下宮大和(2年)が、初球をレフト越えの先頭打者本塁打。2回裏には、連続三振を奪った2死から長短打で1点を追加された。

 4回まで、毎回安打を放ちながら無得点の広陵。英数学館の右腕・末宗興歩(3年)の投球数は4回まで58球。1イニング14.5球と理想的な球数ながら、実は半分の29球がボール判定されている。適当に荒れ、ボール球が多く、広陵打線が手を焼いた数字だ。

 5回に1点返したが、ここからの投球はボール球が37.7%に減っているのに対して、1イニングあたりの球数は15.4球。ファールが目立っており、バットが芯を外されていた。ストレート主体で攻めたようで、小さく動くカットボールやツーシームが多かった。さらにフライアウトが増えたのは、追いつけない焦りから大振りになっていた結果だ。9回の攻撃も、代打の背戸河内晴哉(3年)と田上夏衣(2年)の連打で無死2・3塁とするも、後続がフライアウトを重ねた。最後の打者となった4番・真鍋慧(2年)は、本塁打性の大飛球を放ったが、センターの笹村凌我(2年)に好捕された。

 広陵に勝利した英数学館だが、次戦で近大福山に敗れ、その近大福山は準決勝で盈進に敗退した。

 85校、83チームが参加した第104回全国高校野球選手権広島大会は、盈進が48年ぶり3度目の優勝で幕を閉じた。福山市からの甲子園出場は、89年の近大福山以来である。

 ノーシードで7試合を戦い、80安打、66得点した打力に目が向くが、5投手が登板してわずか10失点。実は防御率1.24の投手力が充実した守りを鍛えたチームで、対戦相手に一度もリードを許していない。「甲子園は8試合目、普段通りの準備をする。盈進球場で日頃練習してきたことを出していく」。佐藤康彦監督のもと、県大会の勢いを甲子園でも見せてほしい。

 準優勝は同じ備後地区の尾道。主戦左腕の坂本は準決勝までの5試合すべてに登板し、1完封を含む4完投。3番打者として4割を超える打率を残し、投打でチームを引っ張ってきた。決勝では、一週間で500球以内の球数制限まで残り79球で先発登板。4回で12球の投球可能な球数を残して外野守備に。8回途中で再登板して、500球を投げ切って降板した。それまでの快投に比べ、連戦の疲れからか投球にいつものキレが無く、盈進打線に捕まった。

 4強には、近大福山と、センバツ出場の広島商が入った。近大福山は2年生左腕・増田楓馬の力投で英数学館や瀬戸内相手に勝ち上がったが、盈進には緩急を使った投球が、連打を浴びた。攻撃の仕掛けも後手後手に回り、零封された。

 広島商は打力と、浴口光介(3年)、桝上空人(2年)の両左腕を中心に全試合を継投で勝ち上がってきたが、春に続いて尾道の坂本を打ち崩せなかった。東部の私学が3校残ったことで、準決勝からの3試合は、いつもとは違った景色に見えた。ベスト8に残った公立校は2校で、例年より私学の強さが目立った。

 一方16強まで目を向けると、公立進学校の活躍も目に付いた。昨年の祇園北の準優勝には届かなかったが、シード校を破った海田と舟入が4回戦まで進出。福山誠之館は4回戦で尾道に5回までリードを奪った。

 竹原は、好投手・新納を擁して16強入りしたが、指揮を執るのは83歳の迫田穆成監督。広島商、如水館で14度チームを甲子園に導いた名将は、「今年は甲子園を目指せるチームではなかった。来年はもっと強いチームを作ってくる」。高校野球への情熱と、勝利への執念は全く衰えていない。