新井貴浩監督の就任会見から2週間。コーチ人事も続々と発表され、新体制への注目と期待はますます高まるばかりだ。広島アスリートマガジンでは、これまで、現役時代〜引退後にかけて新井監督の声をファンへ届ける独占インタビューを掲載してきた。ここでは、2019年1月号『永久保存版 新井貴浩』より、インタビューの一部を再編集して掲載する。

 「最後にかわいい後輩たちと喜びあえるように、それで終われるように頑張っていきたい」

 現役引退発表でそう口にしてから、新井にとって最後の真剣勝負の日々が始まった。有終の美を飾るリーグ3連覇、勝負強さを見せたクライマックス・シリーズ、 そして、悲願の日本一をかけた最後の真剣勝負となったソフトバンクとの日本シリーズ─。

 最後まで全力で駆け抜けた背番号『25』が語った、現役ラストシーズンとは。

◆最後の最後まで真剣勝負

現役引退直後、広島アスリートマガジンのインタビューに答える新井氏

─最後の戦いとなった日本シリーズを終えて、期間が経ちました。練習を行わない現在はどんな気持ちですか?

 「自分が本当に引退したんだという実感がないですね。ただ例年だとシーズンが終わって3、4日くらい休んだらウエイトトレーニングをガンガンやっていたんですけど、それをやらなくてもいいので、多少楽な部分はあります。ですが、まだユニホームを脱いだんだという実感はないです。おそらく、春季キャンプが始まって『自分がユニホームを着ていない』と思ったときに、引退したんだという実感が湧くのかもしれないですね」

─改めて引退発表した時のことを伺いたいのですが、9月5日、世間にご自分の意思を公表するにあたりどんな心境だったのですか?

 「もともと発表するタイミングは球団にお任せしていました。その時期はまだ優勝も決まっていなかったですし、自分としてはみなさんにご報告というだけであって、それで自分が感傷的になるだとか、会見までにそういう気持ちになるとは思っていなかったです。その時点ではまだまだ大事な試合が残っていましたからね」

─引退発表後の世間の反応をどのように感じられていましたか?

 「ちょっとびっくりしましたね。自分が想像していた以上にファンの方ももちろん、自分の友人、知人の反応も含めて予想以上の反応でしたからね」

─改めてお聞きしたいのですが、引退を決断されたのは6月頃と会見でもお話しされていました。決断した瞬間はどんな場面だったのですか?

 「交流戦の終わり頃にはその気持ちを持っていました。『若い選手たちが力をつけてきているな』と感じたときに、『じゃあ自分は今後のカープのために』と考えるようになって、比較的スパっと引退を決断しました。その後、球団に引退する気持ちを言ったときも『考え直せ』と慰留していただきました。そういう風に言っていただいてすごくありがたかったです。ただ、たとえば『来季もう1年やろう』と思ったとしても、僕にとっては『もう1年』なんですよね。でも若い選手にとっては『この1年』なんです。彼らは『今』が大事だし、『この1年がダメだったら』という選手もたくさんいますから。そういうことを考えたら『今年で引退しよう』と思いました。3年後、5年後のカープを考えたときに、今が自分の引き際としてはベストだと判断しました」

─引退会見では、まず最初に黒田博樹さん、石原慶幸選手に意思を伝えたとお話しされていました。

 「やはり、まず自分の気持ちを一番早く言っておかなければならないと思ったのが黒田さんでしたし、現役選手では石原でした。石原は後輩ですけど若い頃から仲が良かったですし、黒田さんはもちろん早い段階で言わないといけないと思ったので、筋としてですね」

◆終わった瞬間は感謝の気持ち

─9月26日には念願の地元マツダスタジアムで優勝を決められました。やはり感慨深いものはありましたか?  

「そうですね、今はどの球場でもたくさんのカープファンの方々に応援していただいていますが、昨年、一昨年とビジター球場での優勝でしたからね。もちろん僕自身もうれしい気持ちがありましたが、一番は地元のカープファンの方々に『マツダスタジアムでの胴上げ』をよろこんでもらえたことが良かったと感じていました」

─優勝決定直後にはチームメートのみなさんから胴上げもありましたね。

 「実は事前に石原に『俺は2年前に胴上げをやってもらっているし、いいから。お前たちがそう言う風に言ってくれるんなら、日本一になったときに頼むね』と言っていたんです(笑)。でも球場の雰囲気やファンの方々からの新井コールもありましたし、それは本当にうれしかったですし、そんな中で胴上げをしてもらって幸せな選手だなと感じました」

─最後の真剣勝負となった日本シリーズでは、代打でコールされる度に大歓声でした。その歓声に感じるものはあったのでしょうか?

 「もちろん、その大歓声は僕に届いていました。自分の気持ちを高めてくれる、押し上げてくれるというか、毎回大声援をくれてうれしかったですし、感謝しています。大歓声の中でプレーさせていただいて、本当に選手冥利に尽きますよね。『よし! なんとか』という気持ちにさせてくれましたよね。その打席を噛み締めながらというのもありましたし、『もう一回、ファンのみなさんをよろこばせたい』という気持ちは変わらなかったですね」

─11月3日の日本シリーズ第6戦(ソフトバンク)が引退試合となり、新井選手の真剣勝負も終わりとなりました。その瞬間はどんなことを考えられていたのですか? 

「終わった瞬間は『ああ、これで終わったか……』という気持ちでした。もちろん、悔しい気持ちもありましたが、それ以上に『今までありがとうございました』という気持ちが強かったですね」