◆怒られた人間より怒った人間の方がつらい

 しかし頭ではそう思っていながら、なかなかその通りにできないのが人間だ。特に僕は怒ってばかりいた。この年はだいぶ収まったが、最初の頃は本当にひどいものだった。これは僕が怒る人間だから言えることだが、実は怒られた人間より怒った人間の方がつらい。ゲンコツを喰らって泣いている生徒より、叱り飛ばした教師の方がつらい。

 それは怒られた人間にはわからない感覚だ。ましてや怒ったことのない人間には決してわからない。僕は怒ってきたぶんだけ怒る人間のつらさがわかるし、選手を怒った夜はいつも「言い過ぎたかな……もっと違う言い方はできなかったのか……」と夜中にひとり考えてしまう。

 そんなときは、ふと「僕を怒ってきた監督たちもこういう思いをしていたのかな」と感じたりする。人は親になって初めて親の気持ちを理解するとよく言うが、やっと僕は僕を教えてくれていた指導者と同じ立場でものを考えられるようになったのかもしれない。

 2012年シーズンがスタートした。この年も前年に続きスタートダッシュに成功した。開幕直後の4月3日から8日にかけて6連勝。その中には4月6日、マエケン(前田健太)のノーヒットノーランという快挙もあった(DeNA戦。2対0)。

 なによりも先発の柱がマエケン、バリントン、復活した大竹(寛)、そしてルーキーの(野村)祐輔と、さらに盤石になったことが大きかった。今年も交流戦まではこのままいけるのではないかと期待した。

 しかし落とし穴は意外なところに待っていた。2011年、絶対的守護神として君臨したサファテの調子が上がらないのだ。ストッパーは試合の最後の勝敗がかかったところを任される重要なポジション。だから常に重圧にさらされており、ちょっとしたことで精神のバランスを崩しやすい。彼もまたメンタルの状態が不安定になっていた。

 外国人選手の中には常に人と会話していないと不安な人がいる。そういう選手はしゃべっているときは調子が良いが、一度気持ちがこじれてしまうと途端に無口になり、こちらに近寄りもしなくなる。サファテもまさにそのタイプだった。