2010年から5年間カープを率い、25年ぶりの優勝への礎を築いた野村謙二郎元監督。この特集では監督を退任した直後に出版された野村氏初の著書『変わるしかなかった』を順次掲載し、その苦闘の日々を改めて振り返る。
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 2013年が始まるにあたって、僕としては『優勝がしたい』というただそれだけだった。目標はひとつ。それはいつでも、どんなときも変わらない。監督としては常に「結果を出さなければいけない」という使命に突き動かされてきた。

 その目的を実現するためにどうすればいいのか? それを受けてこの年は「調子の良い選手を使う」という方針を掲げた。若手育成は引き続き進めていかなければならないが、より結果にシビアになるというか、もうあまり悠長なことは言っていられない状態になっていたのだ。

 だからといって若手に厳しく当たるようになるかというと、そうではなかった。僕は逆だった。僕は選手にもっとくだけて接するようになった。彼らと接するときには、以前よりも目線を下げて話をしてみることにしたのだ。

 具体的には練習中に冗談を言ったり笑顔を見せたりするようになった。それまでありえなかった姿である。これまでスパルタ気質の指導者に鍛えられてきた僕は、練習中に歯を見せて笑うなどもってのほか、普段はバカをやっていてもユニホームを着た途端に公私の区別をしっかりつけろ、と口を酸っぱくして言ってきた人間である。