◆若い投手がデビューして必ずぶつかる壁

 たとえば若いピッチャーがデビューして必ずぶつかる壁がある。それはファンの反応だ。「ピッチャー、〇〇」とコールされたとき、観客は正直だから素直に感情が表れる。自分に向けられた声がワーッと盛り上がる歓声か、エーッという不安とも不服ともつかない溜息か……特にマツダスタジアムはそれが残酷なまでにはっきりしている。

 みんな「よし、これで勝った」「期待してるぜ」と感じているのか、「大丈夫?」「またやられるんじゃないの?」と思っているのか、その雰囲気の中で彼らは投げなければいけないのだ。それがいわゆるプロの洗礼というものである。

 若いピッチャーはこの雰囲気に呑まれてしまう。だが彼らはファンから不安な視線を注がれようと、それを跳ね返して自分を認めさせなければいけない。それを乗り越えていくのはメンタルの力である。

 彼らが壁を乗り越えるため、どう接するかは選手次第だ。当然ながら選手それぞれに性格が違う。それを見極めて「球場のお客さん全員が敵になっても俺はおまえの味方だぞ」と鼓舞するときもあるし、「あんなブーイングをねじ伏せるには、1試合や2試合じゃダメだぞ」と叱咤するときもある。本当に選手によって違うのだ。

●野村謙二郎 のむらけんじろう
1966年9月19日生、大分県出身。88年ドラフト1位でカープに入団。プロ2年目にショートの定位置を奪い盗塁王を獲得。翌91年は初の3割をマークし、2年連続盗塁王に輝くなどリーグ優勝に大きく貢献した。95年には打率.315、32本塁打、30盗塁でトリプルスリーを達成。2000安打を達成した05年限りで引退。10年にカープの一軍監督に就任し、積極的に若手を起用13年にはチームを初のクライマックス・シリーズに導いた。14年限りで監督を退任。現在はプロ野球解説者として活躍中。