◆選手の内面に、より迫れるアプローチ

 その変化にはコーチたちも驚いて「監督、大丈夫ですか?」と言ってきた。「ちょっと甘やかし過ぎじゃないですか?」と非難めいた言葉までかけられた。目線を下げたというよりも、正確には選手の内面により迫っていけるようにアプローチを変えたのだ。いかに彼らの内面を引き出し、そこに作用していけるか―それを考えた末、新たに試みてみたのである。

 ただ、これは選手時代にも感じていたことだが、監督が目線を下げて近づくと、選手は警戒してしまう。僕が「調子はどうだ?」と話しかけると、選手は「監督が急に優しくなったけど何かあるのかな?」と萎縮してしまったりする。だから監督と選手の距離感はなかなか縮まることがないのだが、それでも僕はあきらめずにそのアプローチを続けた。

 若い人との接し方、彼らをどのように指導すればいいのかという悩みは、野球チームだけでなくどんな会社でも抱えているものだろう。はたして笑顔で接すればいいのか。「よしよし、ミスなんていくらでもしてもいいぞ」という接し方が最適なのか。それは僕が受けてきた指導とは真逆であり、当然違和感もある。

 ただ、時代の流れの中で、今は怒鳴ったり手を上げたりというやり方はタブーになっている。だから自分がやられたそのままをやることはできない。そもそもそれが正解というわけでもない。ではどうするか……その都度その都度、僕は悩んできた。

 良いプレーを褒めるのは簡単だ。良いプレーはわかりやすいし、やった選手も気持ちが良い。しかしそういう選手が失敗したときが難しい。特に若い選手は一度失敗すると、気持ちがヘコんでしまって、長期間立ち直れなくなることが往々にしてある。それをいかに復活させるかが僕らの仕事になる。