2010年から5年間カープを率い、25年ぶりの優勝への礎を築いた野村謙二郎元監督。この特集では監督を退任した直後に出版された野村氏初の著書『変わるしかなかった』を順次掲載し、その苦闘の日々を改めて振り返る。
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 そしてチームは中2日で東京ドームへ乗り込んだ。CSファイナルステージの巨人戦である。

 僕たちはあくまでも挑戦者であり、向こうには1勝のアドバンテージもある。だから初戦が大事なことは戦前からわかっていた。初戦を獲ることは短期決戦のセオリーだが、さらにウチのチームの勢いを考えると初戦がすべてと言っても良かった。

 ただ、結果的なことを言えば、僕らの勢いをもってしても巨人に対する苦手意識は払拭できなかった。この短期決戦はチームの勢いと巨人に対するコンプレックス、2つのうちの大きい方が勝つと思っていたが、残念ながら軍配は後者に上がった。

 やはり巨人が相手だと構えてしまうのだ。こちらがリードしていても、「そのうち逆転されるんじゃないか?」と怯えてしまい、「空中戦に持ち込まれてやられるんじゃないか?」という怖れが常に選手につきまとう。

 その象徴的な試合が10月16日の初戦だった。2回に2点を先制して、いけるんじゃないかと思いながらも、1点ずつじりじりと差を詰められて、最後には逆転されてしまう。試合は9回2死で、二塁ランナーの赤松が三塁をオーバーランしてゲームセットという唐突な終わり方をした。キクの内野安打で赤松が飛び出してしまったのだ。

 あれがなければ同点、逆転と繫がったのではないかと見る向きもあるが、僕はあのプレーは仕方なかったと思っている。あれはミスとは思わないし、赤松のことも責めなかった。ボールがあと数センチずれていれば……、ということなのだ。

 1戦目を落としたことで、通算成績は0勝2敗。窮地に立たされた。2戦目はますます負けられない状態になり、ロースコアの戦いで敗北(0対3)。そこでさらに追い詰められ、3戦目は空気に呑まれた状態になり、そのまま一気に押し切られてしまった(1対3で敗戦)。

 ここで知ったのは、やはり短期決戦では初戦を獲るのが重要だということ。そしてもうひとつは、野球は連勝することも難しいが、ひとつのプレーで流れが変わると簡単に連敗してしまうスポーツだということだ。負の連鎖はいとも簡単に発生し、チームを呑み込んでしまう。