2010年から5年間カープを率い、25年ぶりの優勝への礎を築いた野村謙二郎元監督。この特集では監督を退任した直後に出版された野村氏初の著書『変わるしかなかった』を順次掲載し、その苦闘の日々を改めて振り返る。
「変わるしかなかった。」のご購入は、広島アスリートマガジンオンラインショップ

 

 2014年シーズンは、前年秋以降の勢いが年をまたいでも続いているという雰囲気だった。そこにCSに出場したことで自信を手にした若手の成長が加わった。5月10日終了時点で24勝12敗、貯金12。ほぼ2勝1敗のペースで、6月上旬までずっと首位を快走することができた。

 その快進撃を支えたのが投手陣のさらなる充実だった。早い段階でルーキーの(大瀬良)大地、九里(亜蓮)に初白星がついた。そして先発陣がバトンを渡す後ろのピッチャーが盤石だった。この年、序盤に特に機能したのが(中田)廉、一岡(竜司)、ミコライオとつなぐ“2014年版勝利の方程式”。特に若い2人、廉は5月17日まで、一岡は5月29日まで自責点0という快投を披露してくれた。

 彼らがいてくれるおかげで、7回までリードをしていれば勝てるという戦いができるようになった。これまでは“魔の7回”などと言われてきたが、立場が逆になるとこれほど安定した戦いができるのかと驚かされたものだった。

 そして打の立役者は、なんといってもエルドレッドだろう。彼の残留に関しては僕が強く訴えた。やはりあのパンチ力は魅力だし、ファーストの守備もうまい。そして何事にも手を抜かない真面目な性格が、「こいつが爆発したら戦力が大幅にアップする」という期待感を持たせたのだ。

 実際、エルドレッドは3、4月は8本塁打、23打点、打率.373の好成績で月間MVPを受賞。期待はしていたが、ここまで爆発するとは思っていなかった。春先の調子で行けばシーズンで60~70本近くホームランを打つ計算になる。必ずどこかに落とし穴はあると思っていたが、それでも当時は「行けるところまで行ってくれ」という気持ちで彼のバッティングを見守っていた。