2005年から12年間をサンフレッチェで過ごし、数々のゴールとタイトル、あふれるクラブ愛でいまも多くの人々に愛されている佐藤寿人氏。共に紫のユニホームを着たチームメイトがピッチ上で見せた才能、意外な素顔などを連載『エースの証言』で振り返っていく。

サンフレッチェに2010年〜2013年に在籍した西川周作

【西川周作・前編】すね当てに刻まれている「笑う門には福来たる」

 周ちゃん(西川周作)のことを初めて知ったのは、まだ大分U-18でプレーしていたとき。直接FKを蹴って得点を狙うGKとして紹介されていて、「こんなGKがいるのか」と思ったことを覚えています。周ちゃんは2005年に大分でプロになり、しばらくは対戦相手でした。トシ(青山敏弘)のミドルシュートをはじいたところに、僕が詰めてゴールを決めたこともあります。2010年にサンフレッチェに移籍してきてチームメートになりましたが、周ちゃんの奥さんと初めて会ったとき、冗談で「対戦相手のFWとしてゴールを決められていたので、嫌いでした」と言われました(笑)。

 明るい性格で、すぐチームに溶け込みました。もちろんプレーも素晴らしかったです。セーブやキャッチだけでなく、現代サッカーのGKに求められる足元の技術の高さには、あらためて驚かされました。フィールドプレーヤーと同等か、それ以上のときもあって、ボールの高さやスピード、球種をリクエストしたら、その通りに蹴ることができるすごみを、より深く感じたものです。

 僕が1トップでプレーしているときに高いボールが来ると、相手のセンターバックにヘディングではね返される確率が高いです。周ちゃんはその点において、他のFW以上に繊細にボールを入れてくれていました。高さだけでなく、強さも大事で、弱いボールだとプレー時間がなくなってしまうんです。僕は強ければ強いほどやりやすくて、そういう要求にも周ちゃんは応えてくれました。

 シュートストップは鋭い反応というよりは、自分のポジションを細かく修正するなど、シュートを打たれる前の準備が非常に優れていました。味方を使うのもうまくて、コーチングでDFを動かしながら、自分の守るエリアを限定する。必要な瞬間に相手との間合いを詰めるために、フィジカルのベースを上げるトレーニングにも取り組んでいました。

 あとは、何といっても笑顔。チームが苦しい状況でも、表情と明るさで雰囲気が変わるんです。練習用のすね当てには『笑福来門』(笑う門には福来たる)の文字が刻まれていて、あの笑顔に背中を押されたことが何度もありました。

 もちろん楽しいことはより楽しくなります。2012年のJ1初制覇を一緒に勝ち取ったのは最高の思い出で、横浜で開催されたJリーグアウォーズでは我が家と周ちゃん、カズ(森﨑和幸)の3家族で写真を撮りました。また、2013年に連覇を達成し、カシマスタジアムのピッチで撮影してもらった2ショットは、いまも大切に保存してあります。(後編に続く)

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◆西川周作(にしかわ しゅうさく)
1986年6月18日生、大分県出身 ポジション・GK サンフレッチェ広島/2010年〜2013年 大分トリニータU−18から2005年にトップチームに昇格し、1年目から正GKとして活躍。2010年にサンフレッチェに完全移籍し、同じく正GKとして2012年のJ1初優勝、翌2013年の連覇に貢献した。2014年に浦和レッズに完全移籍し、現在も浦和の守護神として活躍を続けている。

◆佐藤寿人(さとう ひさと)
1982年3月12日生、埼玉県出身。2005年にサンフレッチェに移籍。3度のリーグ優勝に貢献し2012年にはMVPと得点王を獲得。2020年限りで現役引退。通算のJ1得点数は歴代2位。引退後は指導者・解説者として活動中。