2010年から5年間カープを率い、25年ぶりの優勝への礎を築いた野村謙二郎元監督。この特集では監督を退任した直後に出版された野村氏初の著書『変わるしかなかった』を順次掲載し、その苦闘の日々を改めて振り返る。
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 このシーズンのカギになったのは、なんといっても長野、前橋、宇都宮で行われた巨人との3連戦だ(9月2日~)。1.0ゲーム差という状況で臨んだ首位決戦。これに3連勝すれば文句なく奪首、最低でも2勝1敗でいかなければいけないところを3連敗。どの試合もカープが押していながら、あと1本が出ずに敗戦に追いやられるパターンだった。

 ボクシングでいうと、こちらが優勢に試合を進めていたのにカウンターパンチ一発でマットに沈められてしまったという格好だ。その直前の中日3連戦は3連勝しており、チームは最高の状態で首位決戦に臨んだはずだった。しかしまさかの3連敗。僕の脳裏に浮かんだのは、前年のCSの戦いぶりだった。

 あのときも阪神に連勝し最高の状態で巨人にぶつかったはずが、何の爪痕を残すこともできず敗退してしまった。今回もここぞというところでタイムリーが出ず、チームは「ここで打たなきゃ……」というプレッシャーに押しつぶされてしまった。1年経ってもやはり巨人は強く、僕たちはメンタルの弱さを克服できていなかった。

 僕としては、この3連戦が2014年のすべてだと言っていい。巨人を徹底マークするというシーズン当初の方針は奏功して、対戦成績はだいぶ押し返したが(10勝13敗1分)、それでもここぞという試合で勝てなかった。夏場は耐え忍び、首位を狙える位置につけ、「ここからまくっていくぞ!」というカープの得意の形に持ち込むことはできた。

 しかし最初の山場となる9月の3連戦でいきなり出鼻を挫かれてしまった。「ここで勝たなきゃいけない」という要の試合でどうしても勝ち切れない―それはこのシーズン、まざまざと見せつけられた現実だった。ここで勝ったら2位が決まるという最終戦前の阪神戦(10月1日)、ペナントレース最終戦の巨人戦(10月6日)、どちらもことごとく勝てなかった。大事な試合をすべて落として、ファンの方々に溜息ばかりをつかせてしまった。