現役時代、どんな苦境であっても不屈の闘志で乗り越えてきた新井貴浩氏。コロナ禍の影響で開幕が延期となった約3カ月間、新井氏はどのように球界とカープを見つめていたのだろうか? その思いを語る。

12球団で唯一、カープは開幕前の練習にファンを招待していた。

 プロ野球界は現在もコロナ禍の影響を受けています。選手・関係者は初めての経験ですし、各球団をはじめ、NPBや運営側も対応に追われるなど苦労を重ねながら開幕を迎えることができました。ここまで本当に大変だったと思います。

 4月以降、開幕が延期となる中で選手は練習環境が制限されました。それはプロ野球界だけではなく、スポーツ界全体がそのような状況でした。スポーツが日常にないというのは、本当に寂しい時期でした。特に日本では野球はメジャーなスポーツですし、ファンの数も多いですからね。そして春夏の甲子園が中止となった事もショックな出来事でした。僕は野球があってここまで育ってきた人間です。そういう僕からすれば、高校球児の心情を思うとすごく胸が痛いですね……。

 ただ、そんな状況の中、プロ野球は6月19日の開幕が決定しました。これは率直に野球人としてうれしく思いました。またプロ野球ファンの方々にとっても、待ちわびていた開幕です。ですが、今回ばかりは開幕して試合をこなしていく中で、さまざまな問題が出てくる可能性があります。世間ではコロナウイルスの第2波を警戒して動いていますが、開幕するということは、それだけ人が動くという事です。当然感染のリスクも伴う訳ですから、NPBはその都度、対策を2段、3段構えて考える必要があるでしょうね。イレギュラーな問題が起こった時に、いかに対処するか。これが今シーズンのプロ野球界の課題になってくるでしょう。

 コロナ騒動の最中、カープは5月後半から12球団で唯一、ファンを球場に招待して練習見学してもらうという試みをしました。カープは特に地域との結びつきが強い球団ですから、『野球が見られないカープファンのみなさんの気持ちを第一に考えて』という素晴らしい試みだったと思います。それに加え、世間の様子を見ながら観客を少しずつ入れていくということも当然考えていると思います。その時の対応の仕方であったり、インフォメーションも、ナビゲートもそうですし、少しずつ対応していくためという意味でも良い試みだったと思います。まずはカープファンのことを第一に考えて、少しでも練習をお見せしたいという気持ちが先だったと思いますが、元通りの形で試合を運営していくシミュレーションという意味でも大きな取り組みであったと思います。

 またカープをはじめ、各球団で『フライデーオベーション』という活動も実施されています。何と言っても一番大変なのは最前線でコロナウイルスと戦われている医療従事者の方々です。ソーシャルディスタンスと言われるように、人との距離を取らなければならない中で、やれる事というのは限られてくると思います。でも、何事も気持ちを表現するというのは大切な事。プロ野球は影響力がありますし、非常に素晴らしい取り組みだと思います。これからもさまざまな形でプロ野球界として、できる活動をもっと実施してほしいですね。