2006年・第1回、2009年・第2回大会のWBC日本代表に選出された川﨑宗則。彼がWBCで得たものとはどんなものだったのか?

 当時のチーム状況や、自身の思い、そして、2023年・第5回大会となる今大会の注目ポイントを川﨑ならではの世界観で語る。

第1回大会は、いつもと違うプレッシャーの中で始まった

決勝のキューバ戦で勝利し、日本代表は初代王者に輝いた。

 僕は、WBCに2度出場させていただきました。当時を振り返ると、2006年の第1回大会は、当時ソフトバンクの監督をされていた王貞治さんが日本代表の監督をされていました。王監督から直々に連絡をいただき、「代表に選んだから行ってくれ」と言われ、とても光栄でしたし、同時にすごく不安でもありましたね。日本代表でプレーすることは初めてでしたのでよく覚えています。ただ、王監督のもとでプレーするのは、普段からソフトバンクでもやっていましたし、監督の戦い方は分かっていたので、僕としては、やりやすかった面もありました。

 普段、僕たちは4月のシーズン開幕に合わせてコンディションづくりをしていますが、3月にWBCが開催されるその年は、早い時期から(球速の)速いマシンを打ったり、実戦練習を始めたりしました。誰もが初めてのことなので、コンディションづくりには戸惑いました。でもその甲斐あって、調整はバッチリでしたし、実戦感覚の不安もなく大会に入れたと思います。

 WBCというと普段とは使用する球が違い、特に投手は影響があると話題に上りますが、野手にとっても影響がありました。バッティングに関しては球の打感が少し重く感じられ、なかなか飛ばないという印象がありました。スローイングでいうと、球が滑る感覚があったので、投げたとき送球が上に行かないよう、肘を少し下げて投げることを意識していました。1月からはWBC用の球を使って自主トレを行い、実戦練習ではノックをたくさん受けて、キャッチングからスローイングまでの感覚を調整しました。

 8試合に出場させていただいた2006年の大会を振り返ると、準決勝の韓国戦は印象に残っています。素晴らしい選手も多いですし、韓国代表とは多く対戦していましたので、『韓国戦だけは負けられないぞ』と、チームとしても非常に緊張感がある中で準決勝を迎えました。張り詰めた雰囲気、試合展開……、ショートを守っていてとても不安でした。非常に緊張しましたね。

 当時の代表チームは、イチロー選手をはじめとしたメジャーリーグの選手、国内の素晴らしい選手たちがそろった“ドリームチーム”とも言えるメンバーで、僕自身、本当に大きな学びがありました。普段ペナントレースを一緒に戦っているソフトバンクのメンバーとは違う選手たちとプレーし、食事を共にして、とても刺激をもらいました。自分自身、非常に成長できたと思っています。

 そういったトップレベルの選手が集まる代表チームのチームワークは? と聞かれることがよくありますが、プロ野球選手はそれぞれが個人事業主の大社長です。ですから、あえてチームワークという言葉を使うような雰囲気はありませんでした。個々がそれぞれ、与えられた役割を高い次元できちんと果たすことがプロフェッショナル。アマチュアの代表とは違い、プライドを持って高いレベルでやっています。ですからチームワークというよりも、それぞれが持つ力を結集し、戦い抜いたと言う方が適切ですね。だからこそ本当に野球だけに集中でき、良い状態をキープし、素晴らしいパフォーマンスを発揮することができたのだと思います。そしてそれが、勝利に結びついたのです。

 そんなチームの中で決勝という舞台でプレーできることは、とても幸せですごいことだと思っていました。ですから9回裏、リードをして守備に着く時はすごく緊張感があり、相手チームからのプレッシャーを非常に強く感じました。そして試合が終わった瞬間は本当にホッとしました。それはよく覚えています。緊張から解き放たれ、大会が無事終わったと。素晴らしい大会で勝てた喜びはもちろんですが、本当にホッとしたという感じでした。全力を出してやり切ったということだったのでしょうね。

 当時は、ソフトバンクでも優勝、日本一を経験させていただいていましたが、その優勝とWBCでの世界一とでは、やはり全く別物でした。ペナントレースをチームメートと共に戦い、ソフトバンクとして優勝するというのは最高です。自分の家族以上の時間を共にした仲間たちと一緒にプレーした1年間の集大成が、優勝という結果で終われるのは本当にうれしいものです。一方でWBCは、世界中から超一流のプロフェッショナルが集い、チームワークとは別の、それぞれが野球の技術者として世界一の野球を表現する。プレーヤーとして戦い抜く。そんな最高の環境の中で、自分の力を出し切り優勝を果たしたということは、本当に格別でした。両方とも違う意味で、本当に最高ですね。

広島アスリートマガジン3月号は、WBC特集!『照準は世界一。栗林良吏、いざWBCへ!』。日本代表の一員としてWBCに出場する栗林選手インタビューをはじめ、世界の強豪国と戦ってきた石原慶幸コーチ、川﨑宗則選手のインタビューにもご注目ください!