いよいよ3月18日、春のセンバツ甲子園が開幕する。50年前の春、わずか2安打で怪物・江川卓(作新学院高)を攻略したのが、広島商高だった。

 この“伝説”の主人公である迫田穆成監督を2年間にわたって取材し、ラジオ番組で、令和4年度文化庁芸術祭賞・大賞を受賞した、中国放送の増井威司プロデューサーと坂上俊次アナウンサーに、高校野球の『より深い』見方を聞いた。

令和4年度文化庁芸術祭賞・大賞を受賞した、中国放送の増井威司プロデューサー(右)と坂上俊次アナウンサー(左)

◆我々は、なぜこんなに高校野球に魅せられるのでしょうか?

増井:私は、トーナメントというのが大きいと思います。負ければ次の試合がない。そうなると、一戦一戦への思いも違ってきます。選手にとっては、タフですけどね。

坂上:それこそ、名将・迫田監督は、『合気道』に例えますよね。それぞれの試合が「生か死か」と話していました。それだけに、試合に人の本質が出るのかもしれません。

増井:『終わり』をも意識しての戦いがトーナメントだと感じます。その中で、「ああすれば良かった」とか、「人生の次のステージで頑張ろう」とか、ドラマがたくさん生まれます。

坂上:それに、高校野球は『勝ち方』と『負け方』のバリエーションが多いです。1-0での勝ちもあれば、大量点のゲームもある。1人の投手で投げぬくこともある。それこそ、2安打で怪物・江川投手を攻略ですから。

増井:地域差や学校の色も反映されるから、興味が尽きません。1973年のセンバツも、江川投手攻略の広島商業高は、優勝はしていません。江川投手攻略に向け、真っ向勝負で打力を磨いた、横浜高が優勝です。

坂上:世代を代表する選手がいて、そこに対するアプローチもチームによって違ってくるわけですから、そこにもドラマが生まれます。

◆高校野球の持つ力とは?

増井:私の青春時代も、崇徳高や広陵高が甲子園に出場して、地域が盛り上がりました。

坂上:今回、迫田監督の県立竹原高を2年間取材して、あらためて、選手9人では勝てないし、選手だけでも勝てない。学校全体や、地域の力が欠かせないと感じました。

増井:私も広島出身ですが、地方の学校が勝つのを見ると、うれしくなりますし、面白いです。そういう晴れの舞台が甲子園です。

坂上:よく高校野球で地域が元気になると言いますが、順番が逆かもしれません。保護者、学校、そして地域が元気じゃないと、なかなかチームも強くならないような気がします。

◆いよいよ開幕する、センバツの楽しみ方は?

増井:子どものころ、広商野球の凄さが理解できませんでした。1-0、0-0というスコアの凄さがわからなかったです。いかに点をやらせないかとか、やらなくていい1点があるとか、迫田監督の話を取材して、そういうことに興味が持てるようになりました。

坂上:スコアだけじゃないんですね。1人のランナー、ひとつのプレーで選手の心が大きく動く、それが甲子園でしょうね。だから、迫田さんは、『点をやらない野球』を心がけて、選手の心の動きをコントロールします。

増井:迫田監督は凄いと思う。1年の計画、1試合にプランがある。だからバタつかない。そういうチームの個性を少しでも知って見ると、高校野球はもっと面白い。こっちも、開幕までに予習をしておいた方が楽しめますね。

坂上:早速、情報を仕入れましょう。

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